電気新聞では9月28日、「GX時代の電力DXを考える」をテーマに「電気新聞フォーラム2023」を開催しました。激流の中にある電気事業の諸課題について、政府関係者や有識者、企業が講演。また、事業者による座談会も行われました。
 電気新聞フォーラム2023の模様を4回に分けて紹介します。
 
 「GX時代の電力ビジネスとDX」をテーマにした座談会では(1)エネルギー市場の今をどう見るか(2)GXの潮流(3)DXへの期待(4)将来の電力ビジネス展望――の4つを論点に設定し、登壇者がそれぞれの立場から意見を表明。現状をどうとらえ、複雑化する課題にどう挑むかなどを語ってもらった。
◆登壇者(五十音順、敬称略)
・小川博志氏(関西電力執行役常務)
・都築実宏氏(エナリス代表取締役)
・松尾豪氏(エネルギー経済社会研究所代表)
・山本竜太郎氏(送配電網協議会理事・事務局長)
・渡部哲也氏(JERA取締役・副社長執行役員)
 司会=佐藤貞(電気新聞主筆)
 

◆【論点1】エネルギー市場の今をどう見るか

 ◇GX対応型への再構築を 小川氏/◇公正な競争環境が重要に 都築氏
 

 司会 電力システム改革はいったん完了したが、2022年にはエネルギー危機とも言うべき事態に直面した。電気事業の現在地をどう考えているか。

 

小川 博志氏

 小川 3Eの観点で電力システムを取り巻く環境を眺めると、我が国全体で原子力再稼働が遅れている中、2050年カーボンニュートラルというチャレンジングな課題が設定され、そこにウクライナ危機によるエネルギー不安が起きた。日本の電力システムが前提としてきた外部環境が激変しており、電力システムは転換期にある。今後、短期的な経済性だけでなく、中長期的な持続性と安定性を確保しつつ、カーボンニュートラルを達成できる、いわば「GX対応型」の電力システムへの再構築が必要と考える。

 

 司会 新電力の立場からはどうか。

 

都築 実宏氏

 都築 16年の小売り全面自由化を受けて多くの新電力が参入し、しのぎを削ってきた。しかし20年度冬季の需給逼迫と卸電力価格の暴騰以降の状況を見ると、電力システム改革の初期の目的は大きく崩れたと思わざるを得ない。重要だと考えているのは、公正な競争環境の整備。電源へのイコールアクセスなどの環境整備も、電力システムを再構築する中で進めてほしい。

 

 司会 福島県沖地震やウクライナ危機など、様々なリスクに直面した。発電所の現場はどう対応したか。

 

 渡部 福島県沖地震では太平洋側の電源が複数稼働できない状況に陥った。早期復旧に取り組むと同時に、定検で止まっていた電源の稼働前倒しなど、供給力を確保するため取り得る手段を総動員した。その後も需給逼迫が続いたが、廃止を前提としていた老朽火力を再稼働して安定供給を支えた。自由化の中で火力の経済合理性が見通しにくくなり、投資・維持が困難な中で退出が進んだことも需給逼迫の一因と考えている。

 

 司会 送配電事業者の立場から、20年度冬季、22年3月と6月の需給逼迫をどう受け止めたか。また24年度から需給調整市場に全商品が整うが、期待する効果を伺いたい。

 

 山本 3月は地震により複数の電源が脱落した上、記録的な寒波に見舞われた。6月は電源の補修時期と記録的な猛暑という要因が重なった。自然災害や異常気象などのリスクが高まる中で、一般送配電事業者としては供給力の把握の重要性がより高まっていると感じた。需給調整市場については「複合約定ロジック」という世界でも例のない方法を採用。同ロジックの導入により、調整力の調達量・調達コスト低減を目指す。

 

 司会 有識者の立場から、電力ビジネスの現状はどう映るか。

 

松尾 豪氏

 松尾 21年の秋頃に発生したエネルギー危機は、バリューチェーンの中流・下流にリスクが偏ることを表面化させた。特に小売り事業にリスクが寄せられたと認識している。また、再エネ導入量が増えると燃料需要はさらに変動することが予想される。将来的には燃料確保状況を常時監視する司令塔となる組織も必要になるのではないか。

 

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