◇劇的な時短、自動検出に貢献も/ネット画像「虚偽か」確認を

 近年、AI技術の進化とともに、特に注目を集めているのが画像の生成AI技術である。画像生成AIは、元となるデータから新しい画像や情報を生成する能力を持つ。本稿では画像生成AIを中心に、その多彩なポテンシャルから潜在的な問題点まで幅広く検証していく。具体例としてアート創作から医療画像解析、CMなどの分野における応用例を取り上げる。同時にフェイク画像と呼ばれる偽情報の拡散や、著作権との複雑な関係など、生成AIが社会にもたらすであろうリスクや課題についても深く探る。

 生成AIの文章に続く代表的な事例である画像生成AIは、様々な分野で応用されており、その中には、芸術、医療、教育、エンターテインメントなどがある。今回はそれぞれの分野での画像生成AIの応用事例と生成AIの「光と闇」について紹介する。

 まず良い事例として、デジタルアートの世界での活用が挙げられる。多くのアーティストが、自らの創作活動にAIを取り入れている。また、映画やアニメーション制作においても、背景やキャラクターデザインの補助ツールとして利用されている。従来、多くの時間と労力を要していた画像や動画の制作が、生成AIの力を借りることで、劇的に時間を短縮できるようになった。

 具体的には一つの画から画像の回転、縮小、詳細化はもちろん、アニメ風や劇画風、もっと精度の高い写実的な画像を生成したり、過去のモネやゴーギャンといった個性的な画風をそのまま真似た新作の画を作ったりすることも可能である。

 もちろん、生産性の面でも非常に効果的である。例を挙げると、ある大手広告代理店では、従来3カ月かかっていたCM企画について、生成AIを活用することにより短期間でCMプランの素案を数十倍のパターン作成し、クライアントに提案することができ、わずか3週間でプロジェクトが完了したという。これは、画像生成AIが企業の生産性向上に直結し、事業のスピードアップが加速していることを意味している。

 ◇点検業務に応用へ

 医療分野利用では、画像生成AIは、診断や治療に役立つ技術として期待されている。従来、医療画像の解析は専門家の目に頼る部分が大きかったが、AIの進化により、エックス線写真やMRIの画像から異常部位を自動で検出することが可能になった。企業でも、インフラの保守・点検業務に使える可能性がある。例えば鉄塔のさび、コンクリートのひび割れ、腐食検出など、今までもAIが利用されている分野に生成AIの技術を盛り込むことで新たなステージに到達する可能性がある。

 ◇デザイナーが失職

 一方で悪い事例からも目を背けることができない。中国のゲーム業界での出来事を例にとると、生成AIの普及により、多くのスマホ向けゲームのキャラクターデザイナーが職を失ったという報告がある。オンリーワンなデザイン技術を持つデザイナーが生産性を大幅に向上させて、時短と自分の芸術性の方向性を無限に広げることが可能となる一方、代替が利く画像の量産要員であったレベルのデザイナーは画像の生成自動化により不要とされてしまったのである。

 さらに深刻なのは、著名人の顔を学習させ、その人物が実際には関与していない虚偽の事件の画像を生成するという事例もある。サンプルとして掲載しているのが、画像生成AIのプロンプト エンジニアリングのセキュリティー機能である「セーフティーフィルタ機能」を回避した「ハンバーガーを食べる髪の毛がたなびいた感情強めの金髪の米前大統領に似た白人男性」の図である。もちろん、そのままでは、左の表示のように画像生成AIからは作成が拒否されるが、セキュリティーを突破することで、意図しない画像を生成できてしまうのである。

 これらの画像はかなり漫画チックなので本物だと思う人はいないと思うが、インターネット上を探せば、ディスコで踊る法皇様や、仲良く握手する米大統領とロシア大統領の偽の写真を探すことができる。これらのフェイク画像は企業イメージを失墜させる目的で使われる可能性もある。対応して、その画像がAI作成かどうか判定できる技術もあるため、イタチごっこである。

 また、日本やアメリカでは「AIが完全に自律的に作り出したものは著作物ではない」とされている。AIが絡む著作権の問題もあいまいなままであるので、引き続き注視していく必要がある。

 これらの事例を見ると、生成AIの技術は非常に高度である一方、その利用には十分な注意が必要であることがわかる。しかし、この技術が持つ可能性は計り知れない。適切な利用と管理のもとで、明るい未来を築くことができるだろう。

電気新聞2023年9月11日