◇最良の質問や指示形式を模索/新人でも完成度7割の原稿

 生成AIのコア技術として「prompt engineering(プロンプト エンジニアリング)」が注目されている。では「プロンプト エンジニアリング」とは何か。簡潔に言うとAIや機械学習モデルに対する最適な入力フレーズ、いわゆるプロンプトをデザインし、調整する技術だ。このプロンプトの設計は、一見単純な作業のように思えるかもしれないが、実はAIの出力品質に非常に大きな影響を与える技術である。今回はプロンプト設計の基本的な考え方を紹介する。

 プロンプト エンジニアリングとは、人工知能や機械学習モデルに対する入力フレーズ、すなわち「プロンプト」を設計・最適化する技術である。この技術は、正確な出力を得るための最良の質問や指示の形式を模索するというものである。

 その重要性の背後には、単純な質問や指示の微調整だけで、AIの出力の質や内容が大きく変わる可能性があるからである。例えば、生成AIに「東京の天気は?」と質問すると、現在の天気情報が返されるだろう。しかし「東京の天気の変動要因は?」と問うと、気候や地理的な要因に関する情報が返されることとなる。

 もう一つの事例として、多言語の翻訳におけるプロンプトの役割を考える。英語の文「bank」を日本語に翻訳する際、その文が「金融機関」を指すのか「川岸」を指すのかは、文の文脈や追加の情報によって変わる。このような場合、プロンプト エンジニアリングで具体例を書いて、正確な文脈や背景情報を提供することで、より適切な生成結果を得ることが可能である。

 ◇生産性は1万倍に

 具体的にはプロンプト エンジニアリングのサンプル「新聞記事執筆プロンプト」を見て頂きたい。こちらで実際にChatGPTに質問すれば本コラムの骨子と素案を生成させることが可能である。もちろん、このまま出力した原稿は、内容的に必要なキーワードや事例が網羅されているが、コンテンツとしてメリハリがなく平坦で情報密度が薄い、私の見立てでは原稿の完成度としては7割である。

 このレベルの原稿を予備知識なしに書く場合、予備調査と原稿執筆で4日分の工数がかかる。しかしながら、プロンプトでChatGPTに質問すれば、この結果を1分もかからず得ることができる。生産性でいうと1万倍近い工数削減効果が得られたことになる。

 また、皆さんが読まれているこの原稿は私にしか書けない原稿になっているが、サンプル「新聞記事執筆プロンプト」でChatGPTに質問して出力された素案は、たとえ新入社員であっても完成度7割レベルの原稿をそのまま得ることができる。プロンプトを使えばだれでもこのクオリティで作業ができるというのがポイントである。

 ChatGPTへの質問は、ルアー釣りをするのに似ている。岸辺から、魚がいそうなエリアに何度も竿を振ってルアーをキャストする。何度かキャストして、魚がいるところに当たれば魚がヒットする。つまり、ほしい結果が得られるように、タイトルや重要キーワード、追加したいエピソードなどを制約条件に追加して何度も生成AIに問いかけをすることも、生成AIを使いこなす上での重要なポイントとなる。これを通称「壁打ち」といい、この「壁打ち」を正しく行う技術が、プロンプト エンジニアリングなのである。

 この技術は、実は語彙(ごい)力、文章読解の国語力、そして、ChatGPT含めての質問領域の適切な背景を推測する論理力など、その人の人間力すべてを総動員して臨む技術である。ChatGPTを使ってみてあれは使い物にならないという人は、実は人間力の底の浅さを露呈していることにもなりかねないのである。

 ◇体系的に学習可能

 プロンプト エンジニアリングは技術であるので、体系的に学ぶことが可能である。また、企業でChatGPTを導入する場合には、このプロンプトのサンプルを共有するコミュニティー機能を備えるべきである。ある一定レベル以上のプロンプトを大多数の社員が使いこなせるようになれば、それはその企業の大きな力になることは間違いない。

 最後に、プロンプト エンジニアリングの持つ重要性は、単に技術的な側面だけでなく、人とAIとの関係性の在り方を再定義する要素とも言える。私たちがAIとよりスムーズにコミュニケーションをとるための方法論、それがプロンプト エンジニアリングである。この技術を理解し、適切に活用することで、企業はより一段上のAIとの付き合い方をしていくことが可能となる。

電気新聞2023年9月4日