昨年12月に秩父市で行われた実証の様子

 グリッドスカイウェイ(GSW、東京都港区、紙本斉士・代表職務執行者)が、送電線の点検・巡視に使う自動飛行ドローンの航路を整備する。電力、鉄道、通信のインフラ企業が手を携え、信頼性の高い形でドローン実装を実現する構えだ。ドローン航路構築は、経済産業省のデジタルライフライン全国総合整備計画でも柱の一つに盛り込まれた。GSWの取り組みは、他産業も含めた「空のインフラ」構築の一里塚として期待がかかる。

 GSWはドローン点検の実証を広島県府中市、埼玉県秩父市、茨城県那珂市で行ってきた。実装への手応えを得たことから、全国共通仕様を策定し、国内初となるドローン航路の構築に乗り出す。

 まずは秩父エリアにある約150キロメートルの送電線を対象にドローン航路を構築する。始点と終点のみが重視される物流と異なり、送電線点検は面での動きが必要となる。そのため航路は線ではなく範囲で設定した。

 ◇好きな場所から

 初号機はACSL社製の国産ドローン「蒼天」を採用した。重量が1.7キログラム、大きさが約50センチメートル四方の小型機で、カメラを搭載した状態で約25分間飛行できる。飛行可能な風速は、毎秒7メートルに設定した。航路の好きな場所からアクセスし、送電線のルートをたどることが可能だ。

 2027年度以降は1万キロメートル以上のドローン航路を整備する。ドローンが特に必要となるのは人の立ち入りが難しい山間部や水田を通る送電線だが、東電PGエリアはこうした送電線が約1万キロメートルある。1万キロメートル以上の「以上」には、東電PGエリア以外でのドローン航路構築を目指す意気込みが反映されている。

 全国共通仕様には、ドローンの機体や運用のシステムだけではなく、電波が途切れた場合にドローンが引き返す設定や、墜落の危険性を周知するための注意看板設置といったノウハウも含まれる。

 先月28日には送配電事業者6社や沖縄電力などが出資したが、新たにGSWに参画する送配電事業者は、自社が保有するデータを取り込むだけで、ドローン点検を導入できるようになる。JR東日本は、自社電源から敷設している送電線点検での活用を見込んでいる。

 電力会社の送電鉄塔は山奥にあるケースも多く、そうしたところの送電線点検は、山登りを伴う重労働だ。東電PGの場合、これまでは2人がかりで丸一日かけていた作業だった。ドローンの自動飛行による点検は作業時間が3時間程度に縮まり、要員も1人で済む。

 ◇大幅な効率化に

 ドローン活用による生産性向上の効果は、点検で約5倍、巡視で2~3倍と見積もっている。設備の高経年化に伴う作業の増大と人手不足という相反する課題を抱える電力業界にとって、ドローン航路の構築は待ち望んだ解決策だ。

 経産省が9月にまとめたデジタルライフライン全国総合整備計画は、自動運転支援道、インフラ管理DX、ドローン航路を優先プロジェクトに位置付けている。

 送電線のドローン航路は、河川航路と合わせて先行的に設定する方針が盛り込まれた。将来的な目標には、地球1周分に相当する約4万キロメートルのドローン航路構築を掲げている。

 電力業界は看板を設置できる電柱などのアセットや豊富なデータを持ち、ドローン航路を整備するにはうってつけの環境でもある。

 GSWの紙本代表は「まずは電力業界で実装し、課題になっていることをクリアする。そこでの実績や信頼性が他の産業界に対するアピールにもなる。プラットフォームとしてきちんと実装し、安全性を積み重ねた先にいろいろな可能性が開ける」と語った。

電気新聞2023年10月4日