◇新たな発想や工程迅速化期待/業務展開に革命的な変化も

 ChatGPT、いわゆる生成AI(人工知能)は、デジタルテクノロジーの進化に伴い、ニュースでも多く取り上げられ急速に注目を浴びている。その影響は日常のコミュニケーションからビジネスまで拡大し、多くの人が新技術の可能性を求めている。筆者は、セキュリティー専門家としてAIの安全性や誤用リスクに注視している。生成AIの適切な利用やセキュリティ対策は、今後の重要な課題だ。この連載で、その知見を共有し、読者の理解を助けることを意図している。

 ◇人のような文章で

 生成AIは、文字や音声、画像などのデータを学習し、それに基づいて新しい内容を自動的に生成するAI技術を指す。有名なのがOpenAI社の「ChatGPT」である。ChatGPTの成功は、会話形式の自然言語による対話型インターフェースを採ったとったことにある。つまり、人々が入力する質問やコメントに対して、あたかも人のような文章を生成して返答することができるのである。

 この技術の登場により、私たちの情報収集やコミュニケーションの方法は劇的に変化している。例えば、カスタマーサポートの分野でのFAQ(よくある質問)に対してのAIによる自動回答や、テレビ会議後の議事録自動生成、自然言語からプログラムの自動生成、仕様書の自動作成など、業務負荷の工数を圧倒的に激減させることが可能になっている。

 他にも、教育の現場での利用が拡大する可能性がある。例えば、学生が論文やレポートを書く際、生成AIが資料の検索や参考文献の提案を行うことが研究の大幅な助けとなると予想される。また、言語学習の支援ツールとしても使われるようになるかもしれない。生徒が新しい言語の文法や単語を学んでいるとき、生成AIが即座に適切な例文や設問、模範解答を提供してくれる。

 次に、エンターテインメント業界でも大きな変革が期待される。例えば、映画やゲームのシナリオ作成で、生成AIがプロットのアイデアを提案したり、キャラクターのセリフ、さらにはイメージや動画そのものを生成したりすることが可能となりつつある。これにより、新しいストーリーの発想や制作工程の迅速化が期待される。

 ◇最大障壁は信頼性

 しかし、生成AIが広く受け入れられるためには、いくつかの障壁を乗り越える必要がある。その最大の障壁は、信頼性の確保である。人々が生成AIの出力情報を信じるためには、「ハルシネーション」と呼ばれるうそ(知ったかぶり誤認識)や、誤情報のリスクを最小限に抑える技術的対策が必要となる。

 事実、海外においてChatGPTを使った裁判書類生成においてうそ判例だらけと気づかず提出して後日問題になった事案があった。このように、不正確な情報が紛れ込むリスクも考慮する必要がある。また、AIが作成した生成物の著作権があいまいであったり、セキュリティーの攻撃面で悪用される可能性も考えられたりと倫理面での課題もある。

 著作権の問題も解決が求められている。例えば、生成AIによって作成された音楽や文章は、誰のものとして扱うべきなのか。技術者、利用者、またはAI自体が著作者となるのか、これは今後の議論の焦点となるだろう。

 最終的に、生成AIを効果的かつ倫理的に活用するためのガイドラインや規制の策定が企業の責任として求められる。技術の悪用を未然に防ぐ対策と、高い倫理基準を設定することで、企業はこの先進的な技術のメリットをフルに享受することができる。

 結論として、生成AIはビジネスの展開や業務効率に革命的な変化をもたらす潜在力を持っている。しかし、そのメリットを実現するためには、技術的、社会的な課題への取り組みが不可欠である。我々としては、この新しい技術との協働を通じて、持続的な価値創出の方向性を模索し続ける必要がある。

◆用語解説

 ◆ChatGPT GPT(Generative Pre-trained Transformer)シリーズの一部としてOpenAI社によって設計された先進的な人工知能言語モデル。最新バージョンはGPT―4。GPT―3.5は3550億個のパラメータ、GPT4は2200億パラメータの専門家モデルが8つ連結された「専門家混合モデル」といわれている。GPT―4は日本の医学部合格レベルの会話品質に達しているなど、多様なトピックや専門的な知識への対応力が増しており、多くの産業分野や学問での応用が期待されている。

電気新聞2023年8月28日