中央労働災害防止協会は冊子を作りフルハーネス型安全帯の周知に力を入れている
中央労働災害防止協会は冊子を作りフルハーネス型安全帯の周知に力を入れている

 電柱や鉄塔など高所で作業する際、2022年から装着を義務付けられるのがフルハーネス型の安全帯だ。墜落、転落を防ぐ効果は従来品より高まる一方で、使い勝手の改善など、現場への普及には課題も残る。

 安全帯の仕組みは概略、次の通りだ。いざという時のため、作業場に設けた支点にフックでひも(ランヤード)を結び、このランヤードに人体を保持する安全帯をつないで墜落を防ぐ。

 高所作業では一般的に胴に1本のベルトを巻く胴ベルト型の安全帯が使われてきた。これでは落下する人体の角度次第ですり抜けてしまう恐れがあった。墜落を防いだにしても腰の付近に落下の衝撃が集中し、人体が激しく「く」の字になるなど、宙吊りの負傷リスクを抱えた。

 これに対してフルハーネス型は肩や胴、足の付け根に帯を回すタイプ。イメージながら、落ちた人はちょうど落下傘に吊られたような格好になる。すり抜けの防止や衝撃の分散という点で、従来品よりはるかに高性能だ。

 国は22年から6.75メートルを超える高所作業を対象として、このフルハーネス型の装着を義務付ける。背景には一向になくならない墜落災害がある。
 
 ◇特別教育が必要
 
 「(フルハーネスへの)切り替えには、まだ4年ある」。そんな声がある一方、現実を見れば、そう悠長には構えていられない状況だ。

 フルハーネス型の装着では、原則として来年2月1日までに「特別教育」を受けねばならない。

 器具の構造や種類、装着法、点検・整備の方法を中心とする座学と、装着の実技で計6時間のプログラムだ。教育の実施機関となる中央労働災害防止協会(中災防)は東京、大阪で既に計4回の講習を計画し、希望者の多さと混雑を見越して、回数を増やす準備を進めている。体への負荷を体験する企画も検討中だ。講習を受ければインストラクターとして認定され、現場で指導できるようになる。

 中災防の阿部研二常務理事は「(工事や作業の)元請けの会社に限らず、下請けやさらにその下の作業者まで教育の裾野を広げないと」と話す。命を守る器具だけに正しい使い方が行き渡るよう求めている。
 
 ◇過渡期は注意を
 
 フルハーネス型は技術上、改善の余地もないわけではない。人体を複数の箇所で保持するから、どうしても手足の動きに干渉してしまう。鉄塔や電柱の上で、細かく正確な作業を求められる電工にとって、この「わずらわしさ」をどう解消するか。

 夏場の作業着として主流になりつつある「空調服」との相性もある。冷却用の空気で膨らむ服に安全帯をどう結束するか。細かいながらも現場の作業者にとっては気になるところだ。

 また、国の規格を満たす器具を推奨するべきだが、量販店に並び始めれば、破格の安さで模造品が出回るようになる。こうした点への注意も怠れない。

 慣れ親しんだベルト型からフルハーネス型への転換は、高所作業に対する現場の意識改革を伴う。過渡期は様々な点で注意が必要だ。

電気新聞2018年9月5日