フィンランドの通信インフラ大手ノキアは、日本の電力会社に通信網の統合や新技術の導入を提案する。2月に日本法人内でエネルギーと運輸、公共分野を担当する事業部を新設。5月には設備劣化予測や保全最適化の技術を持つ米ベンチャー企業も買収した。電力分野のIoT(モノのインターネット)化には通信網のさらなる高度化が不可欠。ノキアは日本のメーカーなどとも連携し、電力関連の通信インフラ市場に参入する。

 従来の電力業界は、顧客対応などの情報系や電力設備の制御系といった用途ごとに通信回線を分けるのが一般的だった。用途によって確実に接続できるかどうかや遅延の少なさといった要求水準が異なり、セキュリティーの観点からも回線を分離する必要があると考えられていたためだ。

 しかし近年は再生可能エネルギーを含む分散型電源の増加やIoT化が進み、扱うデータ量と通信の用途も拡大している。これらの変化に対応するためには通信網を高度化しつつ、その運用と保守にかかるコストを抑える必要がある。

 そこでノキアは用途ごとに構築されていた通信回線を光ファイバーによる基幹通信網へ統合することを提案する。その上で制御系通信に求められる高いセキュリティーも含め、全ての要件を満たすように仮想的な回線を割り当てる。既に欧州や米国などで実績を重ねてきた。

 ノキアは通信会社に限られていた高速の無線通信を電力会社などが専用で使える「プライベートLTE」と呼ばれる通信網も構築できる。この通信網を導入した米センプラエナジーは風力発電所の故障予兆把握に用いて修繕費を9割削減した実績がある。

 日本法人であるノキアソリューションズ&ネットワークスの奥田浩一郎執行役員・エネルギー・運輸・公共事業部長は「ノキアは有線から無線までトータルで世界標準の技術を提供できる」と話す。 ノキアは日本の電力業界にも高度な通信網に加え、そこで実現できるIoTソリューションも提案する方針。その一例として有望視するのが、5月に買収した米ベンチャー企業スペースタイムインサイトの技術だ。この技術を使えば送配電や発電といった設備単位の分析モデルで劣化を予測し、それに合わせて保全作業を最適化するシミュレーションも行える。

 日本の電力関連市場を開拓するに当たり、過去の経緯や現状に詳しい国内メーカーなどのパートナー企業と組む方針。先進技術や海外事例などの情報も開示していく考えだ。

電気新聞2018年9月5日