◇世界30ヵ国以上、2800人が参加/情報共有と直接対話の場に

 1973年、米国ワシントン州のハンフォード・サイトで「タンクから高レベル放射性廃液が漏えい」というマスコミ報道が転機となり、米国で放射性廃棄物に対する問題意識が高まった。放射性廃棄物の研究に取り組んでいたアリゾナ大学により、放射性廃棄物に注力した情報共有とネットワークづくりの場として、WM(Waste Management=放射性廃棄物管理)国際会議が始まった。今回から2回にわたり、WM国際会議の活動について紹介する。

 原子力利用が先行した米国での放射性廃棄物管理に関する注目点を列挙してみよう。

 ▼最大の廃棄物発生源は、第二次世界大戦および冷戦の時代からのいわゆる「レガシー施設」。廃棄物の組成の違いもあり、民間施設からの廃棄物とは区別して取り扱われる。

 ▼商業用原子力発電施設からの低レベル放射性廃棄物は、運転中・廃炉解体廃棄物とも、米国内の民間放射性廃棄物処分場で処分するか、リサイクル利用。

 ▼使用済み燃料は、発電所内および廃炉跡地で乾式貯蔵。

 ▼小型モジュール炉(SMR)や核融合炉等の革新炉の開発では、設計段階からバックエンドについても配慮。

 ▼立地地域との情報共有とダイアログ(対話)が活発。

 ▼人材およびサプライチェーンの維持・確保は、若年層を対象とするSTEM(科学・技術・工学・数学)教育、専門技術者確保・育成のための学生支援、大学との連携も活発。

 ▼大企業からベンチャーまで幅広いサプライチェーンを構築。新規参入も多い。

 原子力開発の進捗状況、原子力利用形態、放射性廃棄物の量と形態、地理的条件、社会体制等の違いはあるものの、安全かつ効率的に進める上で、経験を含めた情報の共有への関心は世界的に高い。

 ◇主要テーマ900超え

 毎年3月上旬頃に4日間にわたり開催するWM国際会議には、国際機関のほか、世界30カ国以上の規制当局を含む政府機関、地方自治体、産業界、研究機関、国際機関、ベンチャー、教育機関などから、2800人を超える参加者が集まっている=図1。

 会議は、技術セッション、展示会場、学生向けプログラム等から構成される。技術セッションは11分野(Trackと称す)で構成され、世界中から900を超える発表がある。ここで取り上げている主要テーマは次の通り。

 「放射性廃棄物管理」「原子力施設の廃止措置」「放射性物質の梱包と輸送」「コミュニケーション、ステークホルダーと地域との共存関係構築、専門能力開発」「学生および従事者の訓練と教育」「発電およびその他のクリーンエネルギー用途のための革新的原子炉技術(SMR、核融合炉等)」「使用済み燃料の管理」「環境修復」「テーマ横断的な先進技術(ロボット、遠隔技術、AI=人工知能等)」

 WM会議で設置される大規模な展示会場には、世界中からの175のブースが出展され、情報の共有と、直接対話によるネットワーク構築に活用されている=図2。

 ◇学生の支援も充実

 さらに、多様な学生向けプログラムを用意しているのも特徴だ。廃棄物管理分野の学生に奨学金を支給し、学生ポスターコンペ、STEM教育支援等の取り組みを行っている。

 WM国際会議を主催している民間非営利団体(NPO)・WMシンポジア(WMS)は、国際継続教育訓練協会(IACET)の継続教育ユニット(CEU)を認定する機関としても承認されている。

◆用語解説

 ◆Waste Management(放射性廃棄物管理) 原子力開発・利用が進む中、操業中に発生する放射性廃棄物だけでなく、操業を終え閉鎖された施設の解体・撤去と、廃棄物の搬出・処分、環境修復までの取り組み全体を意味する。事故や故障により廃止された施設の解体や長寿命核種の処分の経験を踏まえると、計画策定に必要な高線量下の調査やモニタリング、AIを活用したシミュレーション技術、工事実施に必要な遠隔測定、遠隔操作、ロボット技術、さらにはプロジェクト管理、地域との関係、人材確保、サプライチェーン確立、規制など、非常に広範囲な取り組みを指す。

電気新聞2023年8月14日