三峰川電力の送電線にセンサーを設置した

◆センサーで送電線のたるみ、揺れ測定/容量変化を触れずに捕捉

◆丸紅、国内普及へ米社と提携

 ◇1面から続く

 長野県中部に位置する茅野市。中心部から外れた山中に、丸紅子会社で水力発電事業などを営む三峰川電力の送電鉄塔が立ち並ぶ。鉄塔自体は何の変哲もないが、脚部に見慣れない箱形の装置と太陽光パネルが取り付けられている。

 箱の正体は、送電線の監視・解析技術を提供する米LineVision社(ラインビジョン)が開発したセンサーだ。丸紅はラインビジョンに出資し、戦略提携を進めている。

 センサーは送電線を下方から監視し、電線の「たるみ」や、風などによる横揺れを測る。取得したデータはセンサー内部の発信器からクラウドに送られ、専用のポータルサイトからアクセスできる。

 ◇「静」から「動」へ

 たるみや揺れの大きさを測るのは、送電容量(送電線を流せる電気の量)を的確に把握するためだ。従来の運用では電線の材質などを踏まえて保守的な条件を設定し、固定値で送電容量を設定していた。

 設備の安定運用という観点ではそれも「正解」の一つだが、実際のところ送電線に流せる電気の量は「設備がどれだけ熱的に耐えられるか」などによって刻々と変化する。ラインビジョンのセンサーは、その変化を把握する役目を果たす。

 まず、送電線は内部を流れる電気の抵抗などで熱を帯びると延びる(たるむ)ことから、その大きさ測ることで温度を算出する。さらに横揺れを測ることで、送電線の周囲でどれだけ風が吹き、冷却効果をもたらすかも把握できる。これらのデータと、流体力学を用いた気流のシミュレーションを組み合わせて、信頼性の高い結論を導き出す。

 具体的な手法はこれ以外にも複数あるが、刻々と変化する送電容量を動的に捉えるこうした技術を「DLR」と呼び、欧州で先行導入が進んできた。

 DLRの導入が進んだ要因の一つに再生可能エネルギーがある。出力変動する太陽光、風力が増えた結果、発電量のボラティリティー(変動性)が著しく高まり、正確に送電容量を把握する技術が求められるようになった。

 もう一つの要因は、系統増強ニーズに現実の開発が追いつかないこと。再エネやデータセンターの拡大に伴い、系統の容量不足が各地で顕在化しているが、送電線の新規開発は多くのステークホルダーが絡む難事業だ。コストもかさむ。その点、DLRは既存の系統をそのまま生かし、送電容量を底上げできる。

 これらは日本の電力系統にも共通する課題だ。国内でも今後、DLR技術の採用が進むとみて、様々なプレーヤーが動き出した。

 丸紅は三峰川電力の送電鉄塔8基にセンサーを取り付け、21年9月から実証を行う。開始から1年間の運用を通じ、従来の定格容量と比べて送電容量を平均40%増やす効果を確認できた。

 ◇劣化進行予測も

 同社は現在、三峰川の知見を踏まえて日本国内で複数の一般送配電事業者と実証を進めている。ラインビジョンのセンサーは「非接触型」で、送電線の運用を止めずに取り付け可能。特殊器具を使わず低コストで設置できる。多方面に影響する送電線の作業停止を伴わず、設置できる点は強みといえそうだ。

 また、送電線のたるみの大きさは、線の残存強度と相関する。これを生かし、ラインビジョンはセンサーの測定結果から、送電線の劣化進行速度を高精度で予測するソリューションも提供している。

 丸紅の新井信行・電力新事業部副部長は三峰川電力の実証を踏まえ「ほとんど風が吹かない真夏日など、ごくまれな例外を除き、ほぼ全ての時間帯で送電容量が定格を上回った」と指摘。「新託送料金制度の第1規制期間が終わる27年度末までに実証を終え、日本国内での本格展開につなげたい」と意欲を示す。

電気新聞2023年9月29日