電気自動車(EV)急速充電規格の勢力争いが風雲急を告げる。きっかけは米テスラのスーパーチャージャー(SC)を基軸とする北米標準充電規格(NACS)採用を表明するEVメーカーが相次いだこと。スタイリッシュで使い勝手の良いSCのイメージから、日本発のCHAdeMO規格の将来を危ぶむ見方が出ている。だが、実相を探るとNACSには意外な課題があると分かった。「コンボ(CCS)規格推し」で結束していた欧州と北米の足並みが乱れたことで、「状況が好転した」(国内自動車メーカー関係者)とみる向きもある。「三国志」にも例えられる攻防の最前線を追った。(海老宏亮)

 ◇まず日本が着目

 今日の規格間競争の構造を理解するには、EVの歴史を振り返る必要がある。まず急速充電の重要性にいち早く着目したのは日本だ。EVは世界的ブーム前夜から「電池切れの心配」が普及の足かせになると懸念されていた。本格普及に向けて、自宅充電を基本としつつ、出先でのまさかの電欠を避ける「転ばぬ先のつえ」となる公共の充電器が必須となる。とはいえ出先での充電に時間をかけるわけにもいかない。

 そこで東京電力が中心となって、直流で急速に電気を流し込め、多様なメーカーのEVに対応できる「CHAdeMO規格」を検討。競争関係にある自動車メーカー同士を東電がつなぎ、2010年に設立したCHAdeMO協議会が、その発展と普及を担う。

 時を同じくして世界に先駆け三菱自動車、続いて日産自動車がEVを量産化。当初はCHAdeMO搭載EVが海外でも存在感を示した。だが規格の行く手を阻んだのが欧米自動車メーカーだった。

 CHAdeMOは日本発ではあるが、自前主義ではなく世界の優れた技術を結集しシンプルに実装することを旨とする。例えば通信プロトコルは信頼性、堅固性が高いという理由から、ドイツ生まれのCAN方式を採用した。

 ◇優れた技術集め

 CHAdeMO協議会の姉川尚史会長(東京電力ホールディングスフェロー)は、「非営利で、技術に対しニュートラルに、皆で協力し課題を克服する」のが設立以来の信条だと説明する。

 それでも欧米メーカーは、CHAdeMO採用を拒んだ。自動車産業は欧州で産声を上げ、米国で国家的産業となるも、1980年代以降日本にお株を奪われた。その経験から、「EV充電で日本に主導権を持たれることに警戒感が強かった」とみる関係者もいる。

 欧米が2013年に打ち立てた対抗規格が、普通充電と急速充電口を一つにまとめる(コンボする)「CCS」だった。同規格は高出力化で一時CHAdeMOをリードするも、V2X(電動車からの給電)は未実装だ。欧州と北米の間での互換性も確保できていない。

 その間に世界のEV市場を席巻したのは、どちらの規格でもない米テスラのEVだった。独自規格のSCは、高出力に加えて、充電口に差すだけで認証と課金を行う「プラグ・アンド・チャージ」が特徴。充電器設置も自社ディーラーなどに自前で行う独自路線を選択した。

 ここまでの流れを単純化すると、「欧米=CCS、日本=CHAdeMO」という2陣営に対し、「テスラ=SC」という独自の生態系が展開するのが、昨年までの構図だった。そこに彗星(すいせい)のように登場したのが、NACSだ。3陣営が主導権を争う「三国志時代」が幕を開けた。

 ◇次回以降は4面に掲載します

電気新聞2023年9月22日