◆政情、託送規制強化が重しに
中国送配電事業者の南米進出にブレーキが掛かっている。中国国営の国家電網が2017年以降、ブラジルやチリの大手電力会社を買収し、両国の送配電インフラを一定程度担ったが、最近は目立った動きがない。専門家は中国政府の姿勢変化や、中国国内での託送料金規制による収益減などが影響したと見ている。インド企業など新たなプレーヤーが台頭するきっかけになるとの指摘もある。(近藤圭一)
03年から13年の胡錦濤政権による対外政策をてこに、国家電網は海外に出た。09年のフィリピン送電公社の運営権獲得を皮切りに、世界各地に進出。中でも中南米地域で積極的に事業を拡大し、象徴的案件として17年にブラジルのCPFL、20年にチリのチルキンタをそれぞれ買収した。
CPFLは、サンパウロ州に本社を置き、送配電のほか、発電なども手掛ける。配電供給区域はサンパウロ州と、南部のリオグランデドスール州。21年のデータでは、需要家が1020万軒、供給電力量は689億キロワット時でブラジル全土の約14%を占める。
チルキンタは、同国第二の都市バルパライソを抱えるバルパライソ州で送配電事業などを営む。21年のデータによると、需要家は64万軒。単体の配電会社としてみた場合、首都サンティアゴの事業者に次ぐ規模となる。
◇欧米の撤退
もともと南米各国は1980年代から90年代頃に電力自由化を進めた。欧米企業がいち早く南米での電力事業に参入していたが、経営戦略変更や財務基盤改善に伴う事業売却に乗じて、中国企業が入った形だ。国家電網によるチルキンタの買収は、米センプラの経営悪化に伴う株式売却がきっかけとなった。
海外電力調査会の上嶋俊一・中南米グループリーダー・上席研究員によると、ブラジルやチリは中国企業をすんなり受け入れ、排除はしなかった。安全保障上の懸念を指摘する声も一部にとどまる。欧米企業と中国企業を同じ外資として扱い、特に区別していない。CPFLは役員の大半が国家電網出身者となり、買収以降、純利益が飛躍的に伸び、成長を遂げた。年間停電時間も減った。上嶋上席研究員は「中国企業は技術力で劣っておらず、ウィンウィンの関係になっている」とする。
南米各国が中国の投資を歓迎する中で、さらなる進出も想定されていたが、ここ数年、国家電網の目立った動きは見られない。有望な投資案件が減ったことも一因だが、東京電力北京事務所長などを務めた海電調の松岡豊人首席研究員は、習近平政権の汚職摘発にあると分析。電力に限らず中国国外に進出する企業に対し「当局が念入りに調査し、多くの人が収監された」。国家電網など中国の電気事業者は、万が一の収監リスクを恐れ、慎重になっているという。
◇曖昧な姿勢
中国政府の海外事業に対する姿勢も曖昧だ。国家発展改革委員会(日本の経済産業省に相当)は2017~18年にかけ、水力開発など複数の事業を名指しして海外進出を抑制するよう企業に通達した。送配電事業に直接言及はなかったが、海電調の顧立強・中国北東アジアグループリーダー・副主任研究員は、これをきっかけに「徐々に海外進出を絞った可能性がある」とする。また、中国国内では17年頃から託送料金規制が強まり、国家電網の利益率が年々低下。新たな海外進出の余力はないとする向きもある。
南米各国の電気事業に詳しい上嶋上席研究員は「中国に対し、南米各国は今後も継続的に投資してほしいと思っている」と指摘。ただ、その思いとは裏腹に、中国による送配電事業への投資が続くか不透明な情勢だ。上嶋上席研究員は、これを機に「インドなどの新たなプレーヤーが勢力を拡大する可能性がある」と分析している。
電気新聞2023年9月20日
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