変化が表れた落雷のイメージ※クリックで拡大します

◆変電所に避雷器追加設置

 東京電力パワーグリッド(PG)のエリアで、落雷による変電設備の被害が近年増えている。送電鉄塔の最上部にある架空地線をくぐり抜けて送電線を直撃するケースが相次ぎ、機器の故障が発生。変電所に避雷器を追加設置する対策を打っている。雷の発生頻度や強度は増しており、東電PGは雷の遮蔽に関する理論が崩れ始めている可能性もあると問題提起する。

 ◇架空地線越えて

 送電線は、雷を遮蔽する架空地線によって守られている。半世紀前に提唱された「アームストロング・ホワイトヘッド理論」に基づき、遮蔽効果の範囲に収まるように設備が配置され、直撃雷を受ける頻度は少ない。

 東電PGによると、変化が表れたのは約3年前から。エリア内の年間落雷日数が増えると同時に、送電線への直撃雷が目立ってきた。一発の雷撃は遮断できるが、問題は数十ミリ秒のうちに雷撃を繰り返す「多重雷」の場合だ。遮断時のアークを吹き消した六フッ化硫黄(SF6)ガスが冷め切らず、絶縁耐力が落ちている状態で次々と雷撃を受けると絶縁破壊を起こす。

 東電PGは変電所の耐雷設計を見直し、対策を講じている。遮断器が昨年故障した新古河変電所では、2台目の避雷器を遮断器近くに設置し、雷シーズン前の5月末に運用を開始した。避雷器が保護する範囲は約50メートルで、故障した遮断器は70メートルほど離れていた。

 工務部の塚尾茂之・変電技術担当部長は「『自然災害だから仕方がない』とあきらめるのではなく、遮蔽理論そのものや(絶縁破壊を最小限に食い止める)絶縁協調の在り方をどう考えるか、少しずつ問題提起していきたい」と話す。

 過去3年間の落雷数はなぜ増えたのか。日本気象協会エネルギー事業課の渋谷早苗氏は「地上気温」「上空の気温差」という2つのキーワードを挙げる。

 ◇複合的な要因も

 今年6月まで1年半分のデータによると、東京エリア内の月別落雷数は夏(2022年6~9月)に1万回を超え、このうち7、8月は4万回超と突出して多い。要因の一つとして考えられるのは日中の気温上昇だ。1991年以降の8月のデータでは、雷観測日数と日最高気温に比例関係がみられた。実際、20年8月は記録的猛暑に見舞われ、21、22年も高温傾向だった。

 ただ、後半2年は他の年に比べて顕著な高温とはいえず、地上気温だけでは説明できない。渋谷氏は「大気の状態が不安定になることとの複合的な要因」と推定する。

 20~22年の8月のデータによると、上空約6千メートル地点と約1500メートル地点の気温差が大きい時の雷日数は、他の年より圧倒的に多い。後半2年は太平洋高気圧が日本の南海上で西に張り出し、湿った空気が東京エリアに入りやすい状況だったと考えられる。

 今年8月も高温傾向であることに加え、東日本では湿った空気が流入しやすい。発雷数が21、22年並みに増える条件はそろっている。実際にそうなれば強度の強い雷も必然的に増えるため、設備被害が懸念される。長期的視点でみても、地上気温の上昇に伴って雷日数と雷強度は増す傾向にあり、様々な構造物への雷対策が今後問われそうだ。

電気新聞2023年8月15日