散水ノズルの向きを最適化し冷却効率を高めている(写真は品川火力)
散水ノズルの向きを最適化し冷却効率を高めている(写真は品川火力)

 東京電力ホールディングス(HD)の経営技術戦略研究所(TRI)は、ガスコンバインドサイクル発電所が外部から取り込む空気の冷却効率を上げ、出力を向上させる新技術を実用化した。打ち水のように吸気室の手前で水をまく従来手法を改良し、散水の向きや量を最適化することにより、多額のコストをかけず、より効率良く外気を冷やせるようになった。東電フュエル&パワー(F&P)の4発電所に導入し、少なくとも1軸当たり数千キロワットの出力向上効果を確認した。

 TRIは、東電HDが組織大で進める収益力向上策の一環として、技術の外販を急速に進めている。新たな吸気冷却法についても、基幹事業会社などと連携を図りつつ、適用範囲拡大を目指す考えだ。

 LNG(液化天然ガス)を燃料とするガスコンバインドサイクルは、外気を圧縮した形で取り込み、燃焼器で燃料と混ぜて燃やして発電する仕組みだ。気温が高い夏場などは、空気の密度が相対的に薄まり、それによって出力が落ちる。

 電力各社や重電メーカーは、対策の一環として吸気室の手前に散水ノズルを置いて水をまいて温度を下げる「吸気冷却」を実施している。TRIでは梅沢修一・技術開発部エグゼクティブリサーチャらが中心となって、この手法を改善し、冷却効率を大幅に高めることに成功した。

 具体的には、散水ノズルの向きを吸気室の吸い込み口方向の反対にあたる風上方向に変えた。風上方向に水をまくと拡散してしまい、冷却効率が下がると考えられてきたが、実際は拡散に伴って水が蒸発しやすくなり、効率が上がることを突き止めた。

 吸気室に取り込む空気の流れを解析したところ、同室上部では垂直方向ではなく、ラッパ状に巻き込みながら取り込んでいることも分かった。このため、上部のノズルを風上方向ではなく、上向きに設置することでさらに冷却効率を高めた。新知見はいずれも特許を出願済み。

 既に改良した吸気冷却法を東電F&Pの川崎、富津、千葉の3火力に適用し、各ユニットで数千キロワット(1軸当たり)の増出力効果を確認した。増出力による燃料費削減効果は年数千万円(同)に及ぶという。

 さらに、同社の品川火力では、同じ面積でより多くのノズルを設置できる千鳥配置など追加の改良策を講じることで、川崎、富津、千葉の3火力の数倍の増出力効果を得られることを確認した。

 この他にも、散水時にミストのごく一部が蒸発せずコンプレッサー側に流れて、空気圧縮機にダメージを与えるリスク対策として、新たに不織布を用いたエリミネーターを設置。未蒸発ミストを吸収することで、コンプレッサー側への流入を防ぐ手だてを講じた。

電気新聞2018年8月16日