架空送電線に取り付けた温度センサー

◆正確な直接測定を武器に

 住友電気工業は、2030年までに「ダイナミックラインレーティング(DLR)」技術の売上高を10億円規模に成長させ、事業としての確立を目指す。DLRは架空線に流せる電流容量を外部環境の変化に応じて予測し、動的に変化させる。系統の新増設を伴わず送電容量を増加させる技術として注目を集めている。現在は北海道電力ネットワークとの実証を進めている。まずは国内で実績を積み上げるとともに、海外にも販売先を拡大していきたい考えだ。

 架空線に流せる電流はあらかじめ定めた気象条件の下、一定値に決められている。一方で、実際は外気温や日射量、風速といった外部環境の影響を受けて変動しており、ほとんどの時間でこの値を上回っている。

 DLRでは、こうした外部環境変化と架空線の電流値を、センサーなどを活用してリアルタイムで計測。このデータと気象予報データを基に1日先など近い将来の送電容量を予測し、実際の送電許容量に応じた系統運用を可能にする。既存の系統を増強することなく、再生可能エネルギーの連系拡大を実現できる技術だ。

 住友電工のDLRシステムは、架空線に設置する温度センサーのほか、気象センサーやデータの集約装置などで構成。センサー間は自営無線網でつながっており、集約装置から携帯電話網を通じてクラウド上にデータを送信することで、リアルタイムでの計測や容量の予測を可能にしている。

 DLR技術を開発・提供している企業は複数存在するが、住友電工のシステムは電線温度の直接測定による正確な計測を特長とする。自営無線網を構築しており、集約装置のみ携帯電話網に接続していれば稼働可能という設置自由度の高さも強みだ。平均して従来の値から3割程度の容量増を見込んでいる。

 現在は、北海道NWと実証を進めている段階。事業化を目指し、冬季における各機器の動作を確認したほか、送電可能量の予測などに取り組んでいる。

 住友電工は売上高目標の達成に向けて、まずは国内で技術を確立し実績を積み上げた上で、海外にもDLR技術を展開していきたい考え。同社架空線事業部架空システムグループの酒井治グループ長は、「将来的に国内、海外でそれぞれ半々程度の売り上げ構成としたい」と意気込みを語る。

 また、酒井グループ長は、蓄積した電線温度データは架空線の寿命予測にも活用できると説明。「DLRのみでは需要が限られる」とも指摘し、寿命予測なども含めた総合的な設備監視システムとして、DLR技術を展開したいと話す。

電気新聞2023年8月23日