◇世代交代のたびに「再編の嵐」/適切な買収と技術で優位に

 今年の春、ニューヨーク州中部にある試験飛行場NUAIR(ニューエアー)で、5Gを使った商業ドローンの実験が繰り返された。超低遅延を使った遠隔操縦や大容量通信による飛行映像の伝送は「素晴らしい」と携帯大手ベライゾンの担当者は胸を張る。だが、同社は5G商戦で苦境に陥り、傘下の商業ドローン事業を閉鎖したばかり。今は、ひたすら廉価5Gプランの販売を続けている。

 携帯業界では1Gから5Gへ至る世代交代のたびに「再編の嵐」が吹き荒れてきた。例えば米国では、1G時代に乱立した携帯事業者が2G移行期の1994年に第1次再編に見舞われている。

 同様に、3Gに移る99年には第2次再編が、4Gへ移行した2011年には第4次再編が起きて淘汰が進む。5Gに移る20年に第5次再編が発生し、現在の体制になった=図。米国ほどではないが、欧州や日本でも再編は発生した。

 ◇巨額投資に及び腰

 その原因は世代が進むに連れて増える「巨額」設備投資にある。適切な技術に投資した事業者は成長し、失敗した事業者は弱体化し、淘汰される。米国では年間2兆円程度の投資が必要なため、携帯事業者は3社に集約された。巨額投資を無視して新規参入した4社目のディッシュ社は資金調達で迷走している。日本の楽天モバイルも同様だ。

 また、スプリント社を買収し米国上陸したソフトバンクは、厳しい設備競争に絶えきれず、18年にスプリントをTモバイルUSに売却して撤退した。こうした浮沈は、G(世代交代)を重ねるごとに発生する。

 第5次再編が終わった今、スプリントを買って大量の無線免許を手に入れたTモバイルUSが、米携帯業界のトップに躍り出た。これは「ミリ波に手を出さず、ミッドバンド整備に集中した」ことが功を奏した。適切な買収と技術に投資して成功した例だ。

 一方、4G/LTEのトップに君臨していたベライゾンは、ミリ波で低遅延・大容量を実現しようとして巨額投資に絶えきれず業績不振に陥った。これは適切な技術投資に失敗した例といえよう。冒頭紹介したように、ベライゾンは5Gを使った商業ドローン事業を目指していた子会社を閉鎖した。

 日本でも状況は同じ。先行する米国や韓国の事例を参考に、各社ともミリ波への投資を控えている。中国も含め主要携帯事業者は、5Gを「速くて低遅延という夢のサービス」とうたいながらも、それを実現するミリ波の巨額投資には及び腰だ。

 ◇ゼネラルAI頼み

 5Gの難しさは、IoTビジネスにもある。

 携帯事業の柱はスマートフォンだが、成長の余地は少ない。そこで5GではAI(人工知能)を使ったロボットや自動運転車などの新サービスに挑戦する。こうした自律デバイスを総称して「AI―IoT」と呼ぶ。AI―IoTはツールに人格、つまり自己判断を下す力を付与するサービスだ。

 AI―IoTは、通信業界だけでは手に負えないほど規模が大きく、しかも通信事業者が苦手なAIを駆使する必要がある。そのためクラウド業界と手を組んで、携帯大手がAI―IoT市場を開拓していることは前回紹介したとおりだ。

 過去、AI―IoTの製品化は苦戦してきたが、チャットGPTなどのゼネラルAIという援軍が登場している。ゼネラルAIがもう少し高度化すれば、利用者の意図を汲むロボットや自動運転車が登場するだろう。クラウドに宿るゼネラルAIの「神経」として5Gは活躍することになる。

◆用語解説

 ◆ミリ波 5Gで導入された波長がミリメートルの非常に高い周波数。大量の情報を運べるが、光の性質に近いため遮蔽物に弱い。

 ◆IoT Internet of Thingsの略。遠隔検針ガスメーターなど通信機能を搭載したデバイスを指す。スマホなどのコミュニケーション・デバイスは含まない。

 ◆AI―IoT 通信機能だけでなく、AIによる「自己判断機能」も搭載したIoTデバイス。人と会話しながら操縦する自動運転車やロボットなどが典型例。

電気新聞2023年6月26日