◆余剰電力のJEPX供出、「追加的な燃料調達」考慮

 旧一般電気事業者による日本卸電力取引所(JEPX)への限界費用玉出しで、各社が「限界費用」の考え方を見直している。既に調達した燃料の長期契約価格、スポット調達価格の加重平均などとしていたが、沖縄を除く9エリア中6エリアで「追加的な燃料調達価格を考慮した価格」に切り替えた。日本エネルギー経済研究所の小笠原潤一研究理事は「燃料追加のインセンティブが生まれ、安定調達に役立つ」と指摘する一方、電気のスポット価格上昇に作用するとの見方を示す。(近藤圭一)

 旧一般電気事業者は、卸市場活性化に向けた自主的取り組みとの位置付けで、2013年から供給余力全量を限界費用ベースでスポット市場に売り入札している。限界費用は生産量を1単位増やすのにかかるコストを指す。電気の世界では電力を1キロワット時追加的に発電する際に必要な費用で、燃料費とほぼイコールと理解されている。

  

入札価格に反映する限界費用の考え方

 ◇適切な指標に

 各社見直しのきっかけとなったのは、21年10月に電力・ガス取引監視等委員会が開いた制度設計専門会合での決定だ。燃料追加調達に対する価格シグナル発信の観点から、監視委確認の下、追加的な燃料調達価格を考慮した価格での入札を許容することが決まった。

 監視委の見解では、長期契約の残りとスポットでの追加調達分を組み合わせ、発電量で割り戻した価格が限界費用に該当する場合があるとしている。長期契約の燃料で入札する場合でも、長期契約分の消費に伴い、将来的需要に対応するために追加調達した燃料費も考慮する必要がある。燃料価格が高い場合、旧一般電気事業者は見直し前に比べ、より高値で入札できるようになる。

 その後、21年11月に東北電力とJERA(東京エリア)が見直しをいち早く表明。既に対応済みだったJERA(中部エリア)を含め、これまでに6エリアで限界費用の考え方が見直された。JERA(東京エリア)はLNGを先行的に切り替え、石炭は先月末に見直しを表明した。北海道電力のように、どの燃種を見直したか公表していないエリアもある。

 ◇長期契約多く

 現時点で北陸、四国、九州の3エリアは限界費用の考え方を見直していない。電気新聞の取材に対し、北陸電力は「燃料の大半を長期契約で調達しており、現時点で見直しは予定していない」と回答。四国電力は「近年、燃料市況の変動は激しさを増しており、在庫価格と追加調達する燃料価格の乖離が大きくなる局面が増えている」と指摘し、見直しの可能性を示唆した。

 九州電力は「一度見直すと簡単には元に戻せないため、慎重に検討している」と説明。LNGについて「基本的に長期契約で確保済み。スポットでの追加調達は少ない」として、見直しに消極的な回答だった。

 限界費用の考え方見直しは、旧一般電気事業者や市場にどういった影響があるのか。エネ研の小笠原研究理事は、電源の費用回収に寄与する一方、「スポット市場が価格スパイクしやすくなる」と指摘する。逆に燃料費が大幅に下落した場合、旧一般電気事業者にとっては見直し前に比べ、収入が減る可能性がある。また、スポット市場価格の上昇に作用することから、相対契約とスポット市場調達の値差が膨らみ「スポット調達比率を抑える新電力が増える可能性がある」と指摘する。

電気新聞2023年8月8日