◆課題は情報流出リスク
大手電力が生成AI(人工知能)の活用に乗り出している。社内資料作成や企画構想といった事務作業のほか、設備の点検・保守、先進的な発電所運営などにも適用を検討する。先行して試行運用していた九州電力は7月から全社で展開を始めた。東京電力ホールディングス(HD)と関西電力は8月に試行運用を始める計画だ。生成AIを活用することで、さらなる業務効率化を目指す。
先行している3社のほか、中国電力と沖縄電力が早期導入に向けて検討を進めている。沖縄電力はトライアルとして、IR部門で決算問い合わせの回答案を自動生成している。
検討しているのは電力本体と送配電が中心だが、東北電力は一部のグループ企業でも評価・検討を実施。Jパワー(電源開発)は現段階で明確な方針を示していないが、社内での個人利用の実績はあるという。
生成AIを活用する業務は、主に文書生成やアイデアの発案だ。文書の作成・要約、システム開発時のコード生成、社内マニュアル検索、戦略立案など事務作業の効率化を目的として活用を検討するケースが多い。四国電力は「将来的には事務作業全般のあり方を大幅に変革することを期待する」としている。
中部電力は活用先として、設備の保守・点検や顧客サービスの支援を想定。JERAはデジタル発電所(DPP)の取り組みの一つに位置付けている。
東電HDはまず文案生成やマニュアル・ガイド類の検索、社内制度の問い合わせ対応への適用を検討するとしつつも、「今後はより幅広い活用について検討する」との方針を示す。
一方、課題となるのはリスクへの備えだ。北海道電力は社内情報の外部流出の懸念が解消されれば導入を検討する考え。北陸電力は「セキュリティーや著作権など活用に当たってリスクもあるため、十分にルールを検討した上で業務適用を開始する」方針だ。
生成AI導入に際して、九州電力は社外クラウドサービスを利用しており、入力情報を学習しないように制限をかけることで情報セキュリティーを確保する。
効果的に活用するには、セキュリティー面も含めて外部企業の支援が必要との声は多い。関電は利用環境整備のほか、ユーザー研修にも外部企業の支援を検討。四国電力は試行段階から外部企業の支援を受けている。
中国電力は「速やかな導入に向けては、要件に応じて外部企業が提供するサービスを利用することが有効。大規模な活用や個社ニーズに特化したつくり込みを要する場合には、専門家の支援が必要なケースがある」との考えを示す。
電気新聞2023年8月7日