◇経験浅くとも強力な推進力に/企業内の意識変革後押し
第1回、第2回では、DXの成否を分ける条件、DX人材採用の成功に向けて取り組むべきステップなどを紹介した。第3回となる今回は、DX人材の外部採用や社内育成を図る企業がはまりがちな「落とし穴」を挙げてみよう。失敗しがちなステップをクリアし、目的を達成した企業の事例も紹介する。今回のポイントは、「デジタル未経験、経験が浅い人材の有効活用」。ハイスキルなデジタル人材の採用が叶わなくても、ニーズに合った派遣人材によりDXを前進させることが可能なのだ。
DX人材を確保するための手段は大きく2つに分けられる。「社内育成」「外部人材活用」だ。それぞれのメリット・デメリットを図に示した。
いずれもうまく活用すれば効果を得られるが、実は落とし穴にはまる企業も多い現実がある。失敗しがちなのは「必要な人材要件を整理しないまま、人材確保(採用)を進める」ケースだ。
◇別のスキルを転用
ある大手金融企業は業務のDX推進にあたり、「データ分析ソフト(PowerBIやtableauといったツール)の経験者」を採用要件とした。しかし該当する人材は希少であり、獲得は困難だ。そこで技術者派遣を手掛ける私たちスタッフサービスに相談が寄せられた。業務内容を詳しくヒアリングし、人材要件を整理した結果、別のスキルを転用できると判断。ビッグデータの整備経験や、Excel VBA(Excelの自動処理プログラム言語)のスキルを持ち大量のデータを扱うことに慣れているエンジニア・Aさん(20代男性)を紹介したところ、期待する成果を挙げるに至った。
業務効率化への貢献を果たしたAさんだが、実はエンジニアとしての経験は派遣・契約社員を中心にまだ1年半ほどだ。そのような経験レベルの人材でも、業務にうまくマッチすればDXの強力な推進力となり得る。
そもそもデジタル化には3つの段階がある。紙などアナログで行っていた作業をデジタル化する第1段階の「デジタイゼーション」から始まり、既存のビジネスモデルにデジタルを導入する第2段階の「デジタライゼーション」へ進む。ここまでの段階で停滞している企業は多く、情報システム部門担当者は膨大な作業に追われて疲弊している実情がある。
近年はデジタル技術のコモディティー化が進み、高いスキルを持つエンジニアでなくてもデジタル導入がしやすくなっている。経験が浅い人材でも、派遣などの形で活用することで「デジタイゼーション」「デジタライゼーション」を一気に推進。情報システム担当者の負担が軽減され、生産性アップにつながる。そうすれば、3段階目である「デジタルトランスフォーメーション(DX)」――「デジタルを活用して新たなビジネスや価値を創出する」という取り組みへ、円滑に進んでいけるだろう。
◇既存社員に刺激を
一方、自社社員をDX人材へ育成しようとする企業も多いが、その計画にも落とし穴が潜んでいる。社員のモチベーションが希薄なまま育成を進めてしまうケースだ。自社のみで社員の意識改革を図るのは難しく、時間もかかる。この課題に対しては、「モチベーションが高い外部人材」を迎え、既存社員に刺激を与えるのが有効だ。
ある事務処理代行サービス企業は経理関連業務のデジタル化を計画。しかし予算が限られており、派遣であっても経験者レベルの報酬を捻出することが難しかった。そこで「未経験者でもいいので、コミュニケーション力、発想力、提案力、好奇心、学ぶ意欲がある人を派遣してほしい」と私たちに依頼した。
紹介したのは飲食店アルバイトからエンジニアに転身して間もないBさん(20代女性)だ。派遣会社の学習制度で学びを続けながらの就業だったが、学ぶ意欲が高いため吸収が早く、1年半ほどで独り立ち。Bさんの向上心の強さ・スピーディに成長していく姿は、既存社員のITリテラシー向上への学習意欲醸成などにも良い影響を及ぼした。
Aさん、Bさん2人の派遣人材による成功事例を見てきた。このように、未経験や経験の浅いエンジニアであっても適切に活用することで、狙った効果を得られる。DXプロジェクトの前進はもちろん、新たな時代に向けた企業内の意識変革・風土変革を図るにも効果が期待できるのである。(この項おわり)
◆用語解説
◆技術者派遣 派遣会社で常時雇用している派遣エンジニアを派遣する形態(常用型派遣)。登録型派遣(有期)と違い、常時雇用のため中長期のキャリアを見据えやすいという特徴がある。技術者派遣は、派遣期間を経て自社の正社員に切り替えることも可能。自社の業務や顧客特性を理解したエンジニアを確保しながらDX実装を目指す企業が増えている。
◆派遣会社の学習制度 派遣会社は、派遣するエンジニアがスキルアップするための制度や仕組みを持つ。派遣先の実務に合わせた育成カリキュラム(eラーニング・キャリアカウンセリング・業務目標設定シートなど)を提供している。
電気新聞2023年6月5日