系統安定の維持に重要な役割を果たす北本連系設備。写真は函館変換所のサイリスタバルブ(第2極)

◆北本連系設備/運用広域化で増す役割

 各エリアの供給予備力節減や発電所利用率の向上を目的に建設された地域間連系設備。再生可能エネルギーが拡大し、電力の市場取引が活性化する中、求められる役割は変わりつつある。北海道・本州間を結ぶ電源開発送変電ネットワーク(Jパワー送変電)の北本連系設備(60万キロワット)もその一つだ。安定的な運用を維持するため、現場では経年化する機器の手入れに余念がない。(荻原悠)

 

 津軽海峡を望む北海道函館市の中心部から車で数十分。郊外の山腹にJパワー送変電の函館変換所(七飯町)がある。

 「目に見えて動いていないから、何が起こっているか分からないですよね」。函館送変電統括事業所の今泉高宏所長は謙虚に語るが、設備の規模と果たす役割は大きい。

 北本連系設備の連系区間は計約170キロメートル。このうち約167キロメートルは直流送電区間で、津軽海峡には最大水深300メートルの海底を通る直径13センチメートル強のケーブル2本が埋まっている。直流区間の両端に函館、上北(青森県東北町)の2変換所があり、交流に再変換した電力を北海道、東北それぞれの一般送配電事業者の変電所につなぐ。

 直流送電設備は送電ロスの防止や電線の数を少なくできるといった利点のほか、系統の周波数調整を担えるという特長がある。

 今年6月11日の地震の影響で北海道電力苫東厚真発電所2号機(石炭、60万キロワット)が自動停止した際は、北本連系設備の自動周波数制御装置(AFC)が作動。他社連系設備も含め本州側から計40万キロワット弱の電力を融通し、需要と発電量のアンバランスで約0.5ヘルツ低下した北海道エリアの周波数を整えた。

 北本連系設備は1号線、2号線(各30万キロワット)からなる。1号線の完成は1980年で、日本の電力用変換設備の中で最も古い。現在も保守を加えながら運転しているが、近年は稼働状況の変化が目立つという。

 原因の一つには系統運用の広域化がある。2016年の電力小売全面自由化などをきっかけに、日本卸電力取引所(JEPX)のスポット市場を中心に電力取引量は大幅に増加。20年度頃にはFIT(固定価格買取制度)認定の駆け込み需要で北海道エリアの再エネ開発が進み、東北、東京エリア方面への電力融通が量、回数ともに格段に増えた。

 運転日数が増えると保守点検の時間は取りづらくなる。夏冬の需要期は市場取引が増えるため、設備を止められない。定期点検は端境期の春と秋、それぞれ5日間に限られる。

 今泉所長は「北本の1号線よりも長く運転した変換設備は日本にない。先例がないため今後の故障の傾向をつかむのが難しい」と打ち明ける。交直変換のスイッチを担う中心設備「サイリスタバルブ」で基幹部品の経年化はみられないものの、高調波を除去する調相設備など「周辺設備の負担増」にも注意が必要だ。

 ◇安定維持へ、更新視野

 Jパワー送変電は、北海道エリアなどで再エネが一層増えることも見込み、経年化した1号線のリプレースを検討している。現状の北海道エリアの需要規模は300万~500万キロワット程度とされるが、一般海域公募の洋上風力などが100万キロワット単位で系統接続することになれば、系統運用の在り方は「今と別世界になる」(今泉所長)。エリアの系統安定を維持するためにも連系設備の更新は重要性が高い。

 しかし、稼働状況を考えると長期間設備を止める更新工事は容易ではない。こうした状況を踏まえ、リプレースについては敷地内での建て替えなど「複数の案を検討している」(Jパワー送変電)。 脱炭素の流れの中で役割が増す北本連系設備。足元の需要にしっかりと応えながら、将来を見据えた取り組みも着々と進めている。

電気新聞2023年7月27日