◆第2回/採用成功のカギ
◇ゴール・ロール・エールの3「ル」/目的・役割・応援をしっかり
前回は国内企業におけるDXの取り組み、DX人材採用の変遷を振り返るとともに、「採用すべきDX人材の役割明確化」など、DXの正否を分ける条件を指摘した。第2回の今回は、DX人材採用の成功に向けて取り組むべきステップを示す。カギは3つの「ル」のサイクルを回すこと。DX人材の採用・活用に成功している、様々な分野の企業における実践事例も紹介する。
DX人材の採用を成功させるためには、3つの「ル」のサイクルを回していくことが重要だ。それは「ゴール」「ロール」「エール」である。ゴールとは、採用の前提となる目的――つまり経営戦略とその実現のための組織体制を明確化することを指す。ロールは「役割」を意味する。採用活動のプロセスにおいて、採用する人材にどのような役割を担ってもらうか、どのようなスキルを持つ人材が必要か、さらには入社後にどのような成長機会を提供するかを明確にすることだ。また、人事担当者のみでなく、現場の社員たちも採用活動において役割を担う。エールは「応援」。入社後のキャリア構築を支援するため、リスキリングなどの機会提供や人事施策を運用する。また、ライフステージやライフスタイルに応じ、柔軟な働き方を選択できるようにする。3つの「ル」それぞれにひもづく7つの施策のステップを図にまとめた。
◇7つのステップで
実際、DX人材の採用・活用に成功している企業では、共通して7つのステップが実践されている。取り組みの一例を挙げてみよう。
大手製薬会社・A社(ステップ(1)(2)(4)(6)等を実施)は2020年、組織風土改革としてデジタル基盤の整備、AI(人工知能)を活用した革新的な新薬創出とバリューチェーンの効率化を戦略として打ち出した。大手ITベンダー出身者を執行役員に迎え、推進体制を整備。社内でアカデミーも立ち上げ、データサイエンス企業と手を結んでデジタル人材育成プログラムも開発している。
大手損保会社・B社 (ステップ(1)(2)(4)(6)等を実施)は21年、デジタル事業を新たな事業の柱に据えた。100億円を出資し、デジタル技術を活用した商品・サービスの企画開発を手がける子会社を設立。中長期の売上目標1000億円を掲げた。6万人の国内グループ全社員を対象とするDXの基礎研修をはじめ、デジタル人材育成の構想も描く。
大手化学メーカー・C社(ステップ(2)(4)(5)等を実施)は17年にDXに着手。「現場とともに推進」を重視し、製造部門や研究開発部門など、各部署のDXチームが自らDXを推進できる体制を整えた。地方の工場においても新たな生産システムの導入や最適化を進め、変革の事例集を作成。採用においても、応募者が「変革事例」を知ることで働くイメージを描きやすくなり、入社に至っているという。
◇存在感回復に期待
一方、中小企業の中にもDXで注目を集める企業が見られる。部品加工メーカー・D社(ステップ(1)(4)(6)(7)等を実施)は「職人技」をデータ化し、加工プログラム自動作成システムを開発。24時間無人加工を実現した。同社のDXの目的は「人を育てる」こと。「社員をルーティンから解放し、5年先・10年先のビジネスを作る仕事へシフトさせるのが経営者のなすべきこと」と考えている。
20年のマッキンゼーによる緊急提言レポートにおいて、世界のデジタルサービスの普及は日本だけが大きく遅れている実態が示された。また「DX白書2021」(独立行政法人情報処理推進機構)によると、日米のDXの取り組みは日本が圧倒的劣位にある。「失われた20年」といわれるように、日本の製造業は家電・半導体などの分野で世界シェアを大きく落としてしまった。
しかし今、業種を問わずDXを積極推進する企業の中には、急成長を遂げているケースが多く見られる。日本は自動車や鉄道、電子機器といった分野で、世界では後発ながらトップレベルへ成長を遂げた歴史を持つ。もともと立ち上げ段階から少し進んだ、セカンド~サードフェーズを得意とするのだ。DXにおいても、いま、本気で取り組めば遅れを取り戻せる可能性がある。DXが正しいかたちで推進され、日本が再び世界で存在感を示せるようになることを期待している。
電気新聞2023年5月29日
執筆者:藤井 薫氏
1988年、リクルート(現リクルートホールディングス)に入社。『B-ing』『TECH B-ing』『Digital B-ing(現『リクナビNEXT』)』『Works』『Tech総研』の編集、商品企画を担当。『TECH B-ing』および『Tech総研』編集長、『アントレ』編集長・ゼネラルマネジャーを歴任。2016年、『リクナビNEXT』編集長に就任し、19年よりHR統括編集長を兼任(HRはHuman Resources=人的資源・人材)。
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