◇交流人口拡大、健康・幸福感も/インフラ保全から広がり

 前回は、街中にある電柱やマンホールなどのインフラを、市民の力で状態把握を行うアプリ「TEKKON」を紹介し、なぜ市民を巻き込むことができたのかについて触れた。現在もなお、全国のユーザー数は増え、この市民参加型の取り組みはさらに広がっていくことが予想できる。連載最後となる今回は、TEKKONによるインフラ保全に加えて、どのような社会変革が起こりうるのか、TEKKONのさらなる可能性について考えていきたい。

 TEKKONを通じて解決できる課題の一つは、何より、インフラの管理・保全業務の効率化である。

 現在、TEKKONを通じて集まったインフラデータが、実際に活用される事例が全国的に増えつつある。自治体や電力会社と協業することで、彼らが必要とするデータを定義し、ゲームを通じて市民にインフラデータ収集を求める。日常的に集まるデータはもちろん、期間・地域を限定しイベントとして開催することで、より多くの市民が参加するきっかけとなるため、さらに素早くデータを集めることができる。


 ◇3日で2千本達成

 2023年4月に、東北電力ネットワークと協業して開催した「電柱聖戦in仙台」では、目標2千本の電柱データが、開催期間5日間の3日目にして全て収集された。自治体・企業1社のみで抱えるのではなく、市民の力を借りることで効率的に、かつ健全に、インフラ管理が可能になると思える事例である。

 またTEKKONをプレイすることで、得られる効果はインフラ保全だけではない。

 TEKKONをプレイすることが、地域内外の交流人口を生み出すということだ。ゲームのルール上、1度インフラを投稿したら、次のインフラを探しては投稿する必要がある。そのため毎日プレイするユーザーは、徐々に身近に撮影できるインフラがなくなっていくことにもなる。週末などの休日は、電柱を撮影するために、全国を旅する人も出てきた。

 「交流人口の増加」はどの地域にとっても取り組むべき課題であり、様々な施策を打っているが、観光客を呼び込む機会づくりは簡単なことではない。しかしイベントを開催することで、県外からユーザーが訪問するきっかけとなり、認知につながる。また地域住民にとっては、電柱を撮影するために普段行かない場所を歩くことになる。街をより深く知るきっかけとなり、市民生活を支えるインフラを守る地元企業に対する理解、敬意の深化にもつながる。

 そして、TEKKONをプレイすることでウェルビーイングの効果も生まれると考えている。TEKKONの主なプレイ方法は、身近なインフラを撮影するために、スマホを持って街を歩くことである。そのためユーザーの中には、電車やバスの目的地より1駅手前で降りて歩く人や、いつも行くスーパーではなく、違う街に足を運ぶ人などもいる。日常的に歩く習慣が身につくことで、健康的な生活を送ることにもつながっている。

 さらに電柱を撮影するたびにポイントを得ることができ、ある程度のお小遣いにもつながる。主婦や学生などフルタイムで働いていない人にとって、収入につながることは大きな成果であり、何より自分の行動が社会のためになっているという幸福感も増す。現在、TEKKONにおけるウェルビーイング効果については、大阪大学と共同研究中であるが、幸福感のある市民の増加は、地域・企業にとっても素晴らしいことである。

 以上のように、TEKKONの可能性はさらに広がっていくと考えている。

 ◇対象さらに拡大へ

 水道、マンホール、電柱、ガードレールなど、私たちの生活に欠かせない社会インフラ。日本だけでなく、世界のどの街においても欠かせない重要な社会基盤だが、老朽化が大きな社会課題であることは変わりない。現在の撮影対象はマンホール、電柱のみだが、今後は対象を増やしていく予定だ。私たちは、これからも「インフラを、市民とともに守る。」を実現するエコシステム構築を目指して、TEKKONを運営していきたい。(この項おわり)

◆用語解説

 ◆交流人口 居住者以外でその地域を訪れる人、交流する人のこと。その地域に住民票があり居住する人、いわゆる「定住人口」に対する概念。地域を訪れる目的としては、スポーツ、観光、レジャー、アミューズメント、通勤・通学、買い物、文化鑑賞・創造、学習、習い事など内容を問わない。

 ◆ウェルビーイング 心身と社会的な健康を意味する概念。満足した生活を送ることができている状態、幸福な状態、充実した状態などの多面的な幸せを表す言葉である。

電気新聞2023年5月15日