◆第2回/

 ◇遊ぶ楽しさ/ポイント/交流 /共感得てユーザー数拡大

 前回は、インフラ保全・管理の担い手不足解消に対する解決策として、市民参加の社会貢献型アプリ「TEKKON」について取り上げた。連載2回目の今回は、アプリの開発・運用を行うにあたり、市民参画の仕掛けについて説明したい。市民の協力を求める上で、どういった要素が市民の心を動かし、インフラ保全・管理のDX化につなげていくか、理解を深めていきたい。

 私たちWhole Earth Foundationが展開する、市民参加の社会貢献型アプリ「TEKKON」。自治体や電力会社が、電柱やマンホールを管理するには巨大な時間もお金もかかるという課題に対して、多くの市民を巻き込むことで、効率的に、素早く写真データを収集することができる仕組みである。

 ◇約7カ月で12万人

 2022年10月にアプリが正式リリースされてから約7カ月でユーザー数12万人を突破。現在撮影されたマンホール数は366万基、電柱は43万本を超えている。日本以外にも、フィリピン、シンガポール、インドネシア、ブラジル、韓国、台湾、ナイジェリアと8カ国に展開されている。

 「インフラ保全のために、インフラの写真を撮る」。一見すると参加の敷居が高い取り組みのようだが、なぜ市民の共感を得ることができたのか。背景にある3つの要素を解説しよう。

 1つ目は、ゲーミフィケーションの力を活用したことだ。TEKKONには、インフラ保全を行うという社会的な意義がある。しかし、大義名分だけではなかなか人は動かない。私たちは、遊ぶ楽しさというゲーミフィケーションの力を活用した。実世界にあるインフラと、バーチャル世界であるゲームを行き来しながら、ゲームとしての面白さを追求。楽しいというシンプルな思いによって、人を動かすことができる。

 2つ目に、ポイントというインセンティブがあることだ。TEKKONでインフラを撮影すると、ポイントを得ることができる。そのポイントは、LINE Payやトークンに交換することができる。スキマ時間でインフラ画像を撮影するだけで、社会貢献にもつながり、かつ、お小遣い稼ぎにもつながるということだ。実際のユーザーには、「ポイ活」(ポイント活動)のためにTEKKONをプレイしている学生や主婦層も多い。活動した分のインセンティブをしっかりと得られることが、人を夢中にさせることができる。

 ◇仲間の輪が広がる

 そして3つ目は、ユーザー同士のコミュニティーがあることだ。普段TEKKONをプレイする時には、1人黙々と撮影することになるが、1人ではモチベーションも上がらないこともある。TEKKONにはDiscord(ディスコード)というコミュニケーションツール上にオンラインコミュニティーがあり、日々ユーザー同士が気軽に会話している。Twitter上でも、ハッシュタグ #TEKKON をつけてお互いに活発に交流してきた。また、月に1回程度のファンミーティングも開催。「電柱を撮影する」という共通の趣味を持つ仲間の輪が全国に広がっている。

 TEKKONをプレイするユーザーの中には、1年間で6万基のマンホールデータを撮影した主婦も現れた。地域学習も兼ねて休日に遊ぶ親子連れや、70歳を超えてもスマホを使いこなしてゲームに参画する高齢者もいる。年齢を問わず、住む地域を選ばず、スマホで撮影ができれば誰でも遊ぶことができる気軽さも、参加障壁の低さにつながっている。

 上記のような要因が重なり、ユーザーを夢中にさせ、アプリリリースから半年でユーザー数も日に日に増加。日々撮影されるインフラ数が増えていくスピードが上がっている。

 現在の対象インフラはマンホールと電柱だが、今後も対象物は増やしていきたいと検討している。次回の記事では、今後TEKKONが目指す方向性について触れていきたいと考えている。

◆用語解説

 ◆ゲーミフィケーション ゲームデザイン要素やゲームの原則をゲーム以外の物事に応用する取り組み。ゲームにでてくる「レベルアップ」や「スコア競争」など、ゲームで利用される要素を盛り込むことで、参加者を楽しく熱中させ、 学習や目標達成へのモチベーションを高めようとするもの。

 ◆Discord 無料で使えるテキストチャット、音声・ビデオ通話などのコミュニケーションアプリ。当初はオンラインゲームで遊びながらコミュニケーションするためのサービスとして普及。通話品質の高さなどから人気が高まり、ユーザーを拡大している。

◆福田恭子氏/Whole Earth Foundation マーケティング担当

 
電気新聞2023年5月8日