水とトリチウム水を分離する装置(近畿大学提供)
水とトリチウム水を分離する装置(写真:近畿大学)

 近畿大学工学部(広島県東広島市)の井原辰彦教授、東洋アルミニウム、近畿大発ベンチャー企業のア・アトムテクノル近大らの研究チームは27日、放射性物質を含んだ汚染水からトリチウム(三重水素)を含む水(トリチウム水)を分離・回収する方法と装置を開発したと発表した。炭やスポンジのように多量の小さな穴を持つ構造「多孔質体」を格納したフィルターを使い、汚染水からトリチウム水を効率よく分離する。今回の成果により、汚染水の容量削減などが期待できるという。

 井原教授らは、多孔質体と細い管を液体につけた際に液体が管の中を上がる現象の「毛管凝縮」に着目し、除染技術への応用研究を進めてきた。

 井原教授らが完成さた多孔質体は、直径5ナノメートル以下の「細孔」を有し、毛管凝縮によって細孔内に水とトリチウム水を取り込んだ後、トリチウム水を細孔内に保持したまま水だけを放出する機能を持つ。この多孔質体を格納したフィルターによって、汚染水からトリチウム水を高効率で分離する。

 多孔質体を加熱することで、細孔内に残ったトリチウム水を放出し回収することができる上、装置の再利用も可能。低コストでのトリチウム除染が実現できるため、東京電力福島第一原子力発電所におけるトリチウム汚染水について、容量削減および、汚染水の保管場所の問題の改善が期待できるとしている。

 アルミニウム粉末焼結多孔質フィルターを格納した実装置による実験を行ったところ、アルミニウムに熱水処理を施す「ベーマイト処理」を行ったフィルターでは、初期段階でほぼ100%除染されることを確認した。

 今回の研究は、福島県川俣町へ東日本大震災復興支援を行う「“オール近大”川俣町復興支援プロジェクト」の一環として実施された。

電気新聞2018年6月28日