◇インフラを撮影、アプリで投稿/写真データで健全性把握

 インフラ業界の担い手不足が、大きな社会的課題としてクローズアップされている。わが国の人口減少、少子高齢化は年々急加速を続けている。そのような社会において、あらゆる自治体や企業が、限られた予算と人材供給の中で、効率的にインフラ保全・管理を行う仕組みづくりを日々模索している。本連載では、その課題の解決の糸口の一つとして、市民参加型の取り組みを紹介しよう。全国に広がる「シビックテック」の事例を取り上げながら、「インフラ業界DX化」について触れていきたい。

 従来のインフラ保全・管理は、インフラの設置・運営主体である自治体や企業による定期的な巡視点検を行い、必要な修繕工事などを行うのが主流だろう。例えば、日本国内に約3600万本あると言われる電柱を日々点検するには、巨大な資金とマンパワーが必要だ。加えて、サービス利用者である市民から、身近なインフラが壊れている、不具合があるといった通報やクレームを受け、設置・運営主体が動くという流れもあるが、善意頼みで通報等に結びつかないケースもある。

 

◇市民参加型ゲーム

 こうした課題の解決策の一つになりうる取り組みが、私たちWhole Earth Foundation(ホール・アース・ファウンデーション、WEF)が展開する、市民参加型の社会貢献型のスマートフォンゲームアプリ「TEKKON」(テッコン)である。TEKKONでは、アプリをダウンロードしたユーザーが、身近なインフラを写真に撮って投稿することができる。このゲーム内に集まった写真データから、自治体や電力会社が電柱などインフラの状態を一覧で把握。巡視や修繕工事の業務効率化を行うことができる、というエコシステムである。

 アプリの中でユーザーは、撮影・投稿のほかに、他の参加者が撮影・投稿したインフラの写真を見て、インフラに対するレビューを行うこともできる。インフラデータの質を人の目で担保する重要な機能である。市民はこれら写真投稿やレビューにより、ゲーム内でポイントを獲得することができる。獲得したポイントは、LINE Pay、あるいは私たちが独自に発行するトークン・WECに交換することができる。ゲームを遊ぶことが、社会のためになり、少しのお小遣い稼ぎにもなるわけだ。

 TEKKONでは、日常生活において電柱・マンホールを撮影することもできるが、自治体、企業と連携したイベント「TEKKONインフラ聖戦」を開催することもある。地域を絞り、期間を決め、イベントとして行うことにより、短期間で集中的にデータの収集が可能となる。

 

「TEKKON」アプリの地図上に示された撮影対象の電柱マーク。投稿が終わるとマークの色が変わる

◇イベントも効果的

 実際に、2022年11~12月には北陸電力送配電とともに、福井市、富山市、金沢市の北陸3都市にて、決められたエリアの電柱を撮影するイベントを開催。市民が投稿する電柱写真によって配電設備の維持管理効率化へ応用できるかの実証実験も行った。結果として、期間内に、市民の力で各都市千~3千本の電柱データを収集することができた。本来は送配電会社などのパトロール員が1本ずつ見て回る必要がある業務について効率化の可能性があった。

 2023年は東北電力ネットワークと共に、東北全県と新潟にて、1年かけてのイベント形式の実証実験が始まっている。

 「インフラを、シチズン(市民)とともに守る。」そのような理想的な社会が実現されつつあるTEKKON。ゲームを遊ぶことが、社会貢献に繋がり、インフラに対する興味を持つ機会にもなる。サービス利用者と提供者といった一方通行的な関係から、市民を巻き込み、ともに地域のインフラを守る共創コミュニティーが生まれている。

◆用語解説

 ◆シビックテック 市民(シビック)と技術(テック)を掛け合わせた造語。市民が自ら技術を活用して地域や社会の課題解決を目指す試み。

 ◆トークン 暗号資産。TEKKONでは「Whole Earth Coin(WEC)」というTEKKONの独自の暗号資産を発行しており、希望者はTEKKON内で獲得したポイントを、暗号資産に交換することが可能。

電気新聞2023年5月1日

(7月5日、記事の一部を修正しました)