パネルを手に新サービスを紹介する東急パワーサプライの村井社長(左)とCDエナジーの小津社長(31日、東京・永田町)
東急パワーサプライと、中部電力、大阪ガスの折半出資会社CDエナジーダイレクトは、都市ガス小売事業で5月に業務提携。電気・ガスの垣根を越えた競争の構図は一層複雑さを増している

 
 電力とガスの小売り全面自由化を経て、エネルギー販売を巡る競争の構図が大きく変わりつつある。現場で今何が起きており、将来どこに向かおうとしているのか。「新規参入者のシェア」という単調な数字だけではみえない、競争の実像を追った。
 

上流と下流、電力とガス/戦略展開、新たな段階へ

 
 「なぜあんな安値で提案できるのか…」。電力自由化後の競争状況を巡る会話のさなか、東京電力エナジーパートナー(EP)で大口営業に携わる関係者は電力販売量上位に位置する新電力の名前を挙げ、目下最大のライバルだと評した。

 東電を驚かせる競争力の源泉は何か。取材を重ねると、その新電力に、競争力のある玉(電力)を供給する卸元の存在に突き当たる。60ヘルツエリアに拠点を置く大手電力会社だ。同エリアの電力関係者は「表面上は分かりにくいが、入札動向などをつぶさにみれば協調して動いているのは明らか。(新電力は大手電力の)サブブランドのような存在ではないか」と解説する。

 2016年4月の電力小売り全面自由化からおよそ2年2カ月が過ぎた。経済産業省によると、小売電気事業者の登録数は全面自由化直後の1.6倍にあたる約480者に増えた。
 
◇シェアが倍増
 
henka_3_hyou 販売電力量に占める新電力のシェアは、2月時点で12.4%。直近では伸び悩むものの、16年4月と比べて2倍以上に伸びた。また、大手電力会社による従来の供給区域外での契約口数は17年末で低圧が約18万件、特別高圧・高圧では約2万件を記録。大手同士の越境競争が激しさを増す。

 新規参入者が増え、競争が進むにつれて、プレーヤー同士の関係性や提携の構図は複雑化の一途をたどる。冒頭の事例は、氷山の一角にすぎない。電力に続いて、17年4月に都市ガスの家庭向け小売りが自由化され、全体像を把握するのが一層困難になった。

 複雑さを象徴するのが、家庭向け販売が自由化されたことに伴う都市ガスの調達を巡る駆け引きだ。

 中部電力と大阪ガスが4月に立ち上げた折半出資会社のCDエナジーダイレクト(東京都中央区、小津慎治社長)。5月に首都圏で電力小売りを手掛ける東急パワーサプライ(東京都世田谷区、村井健二社長)と都市ガス小売りで業務提携を発表した。

 東急パワーサプライがCDエナジーの取次として、首都圏で家庭向け都市ガス小売りに参入し、将来的には30万世帯の顧客獲得を目指す。一方で、中部電力と大ガスは首都圏向けの都市ガス製造に必要な熱量調整設備を持たず、当面は卸供給を東電EPグループに頼る。

 その東電EPが目下参入に向けて検討を進めるのが、中部、関西エリアでの都市ガス販売だ。「首都圏向けの見返りに、関西では大ガスが東電EPに都市ガスを卸すのでは…」。そんな見立てもささやかれたが、両社が本格的な交渉を行っている形跡はない。

 代わりに複数の関係者が、関西での都市ガスの卸供給元と本命視するのが関西電力だ。電力販売では互いのエリアで徹底的に競い合う両社が、ガス販売では手を結ぶかもしれない。名前が公表されない卸の世界ならではのディールが注目を集めている。さらに、その関電は燃料調達など上流で東京ガスと提携を強める。このため、将来、首都圏で都市ガス販売に参入する場合、難しい判断を迫られる可能性もある。
 
◇思惑絡み合い
 
 上流と下流、電力とガス――。いくつもの変数が絡み、事業者同士の対立では捉えきれない競争の構図が現れつつある。

 電力販売を巡っても“大手電力VS新電力”という単純な二項対立が崩れてきた。新電力のLooop(東京都台東区、中村創一郎社長)は、4月から関西の高圧分野で関電の取次になった。

 低圧は引き続き自社で供給する。LoooPの小嶋祐輔執行役員・電力事業本部長は「競争のフェーズが変わってきた。大手VS新電力ではなく、理念や向かう方向性が近いところとは一緒に物事を進める流れになっている」と狙いを語る。

 東北電力は3月、東急パワーサプライへの出資を発表した。東急パワーサプライが東北電力から電力の卸供給を受けていることは、業界で知られていたが、その関係を一歩深めた形だ。東電関係者は「東急が手掛ける渋谷の再開発案件の電力契約は今後、東北に奪われるかもしれない。ライバルにいうのも変だが、有効な打ち手だと思う」と警戒感を強める。

電気新聞2018年6月11日

 
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