中部電PGの系統安定化システム

 ◆長野方面系統で運開

 中部電力パワーグリッド(PG)は、太陽光発電の導入拡大に対応するため、国内で初めてAI(人工知能)を活用した系統安定化システムの運用を開始した。過去実績を学習させたAIモデルを活用しながら、潮流変化に応じて最適な電圧制御を行う新方式だ。長野方面の系統を受け持つシステムの更新に合わせて採用した。調相設備などの開閉器の動作頻度を減らせることから、将来的に保守費用の低減にも寄与すると期待される。

 長野方面の系統は、JERA上越火力発電所(新潟県上越市)から中部電PG豊根開閉所(愛知県豊根村)までの約300キロメートルに及ぶ、長距離大電力送電系統だ。冬季雷など過酷な自然現象も想定されるため、上越火力の試運転に合わせて2012年に「長野方面統合型系統安定化(ISC)システム」の運用が始まった。同システムの親局は名古屋市内、子局は主要変電所に設置されている。

 このシステムは、系統故障時に回転数が上昇した発電機を高速で遮断して波及を防ぐ「過渡安定度維持」、送電線2回線停止時に長野方面系統の単独運用を可能にする「分離系統周波数維持」、平常時・事故時の電圧変動を防止する「電圧維持」――という3つの主要機能を備える。

 特に「電圧維持」については、太陽光の導入進展に伴う電圧変動の拡大で、適正な電圧範囲を逸脱する恐れや、調相設備などの開閉器の動作頻度が増えることで保守費用が増加する懸念が高まっていた。これらに対応するのが、AIを活用した新たな「電圧無効電力制御方式」だ。長野方面ISCシステムの更新に合わせて採用され、16日に運用を開始した。

 従来、上越火力の発電機の起動停止を除けば出力変動による潮流変化が少なかったため、系統事故など最も厳しい状況を想定して解析シミュレーションを実施。その結果に基づき、同火力発電機の端子電圧や各変電所の目標電圧などの「整定値」を設定し、機器を運用していた。

 しかし、今後は太陽光に加えて、調整力を提供する上越火力の発電機も出力変動が大きくなる。その影響で、長野方面系統の潮流状況は従来以上の変化が予想される。これに対応して膨大な組み合わせの中から適正な整定値を算出するのは容易ではなく、太陽光の連系に制約が生じる可能性があった。

 新方式では過去実績を学習したAIモデルを用いることで、様々な系統状況に応じた整定作業が不要となり、電圧と無効電力を柔軟に制御できる。中部電PGによると、世界的にもAI技術を実際の電力機器制御に活用している例はほぼなく、「世界最先端の試み」という。

 再生可能エネルギー大量導入時の系統安定化は、今後重要性を増す課題の一つ。調相設備などの設置や保守に伴うコストを抑えられる点でも、先端的な取り組みといえる。

電気新聞2023年5月18日