◆働き方、運転の工夫、技能継承…使命感を力に
ある時は安定供給を支える基幹電源として、またある時は再生可能エネルギーの調整役として活躍する火力発電所。本来カーボンニュートラル実現に欠かせない存在だが、脱炭素の潮流が強まる中、逆風にさらされる場面もある。現場で働く「中の人」たちは、今どんな思いを抱いているのだろうか。九州電力の新大分発電所(LNG、総出力約285万キロワット)を訪ね、社員の本音を聞いた。(長岡誠)
◇1人で運転を
取材に応じてくれたのは新大分火力で働く20~40代の社員6人。対話の中であらためてみえてきたのが、緊張感がある発電所の日常だ。
入社2年目で発電所の運転に携わる古城凜さん(20)は教育期間を経て昨年8月から土日の「1人勤務」を任されるようになった。1人勤務とは1~3系列で構成される発電設備のうち、1系列の運転を1人で担う体制のこと。「不具合が起きたら対処できるのか、やはりプレッシャーや緊張はある」(古城さん)
総括グループの西山勝雄さん(42)は「宿直勤務がある新大分は、他部門で当たり前のフレックスタイム制を採用していない。不具合対応で深夜に社員を集めるケースもあり、どこまで柔軟な働き方を進められるかが課題」だと話す。
新大分発電所は太陽光の出力変動などに対応し、運転台数や出力を柔軟に変更している。同じオペレーショングループに所属する栫侑希さん(25)は「需給に貢献できるのはうれしいが(太陽光の出力変動などに対応するため)1日に2回発電機の起動停止をかけるなど過酷な状況が生まれている。どう設備を守り、安定運転を維持するか知恵を絞っている」と話す。
メンテナンスグループからは意外な指摘もあった。発端は法律で義務付けられたボイラーや蒸気タービンの定期検査の間隔を、最長6年に延伸した2017年の制度改正だ。
◇勉強会を開き
発電所の稼働率向上が期待できる一方、機会が減った定検の技能継承が課題になっているという。メンテナンスグループの山本孟紀さん(36)は「蒸気タービンの定検を担当した際、協力会社も含め周囲に経験者がおらず苦労した」と振り返る。
筒井浩史さん(31)も「定検が減った分、従来以上にノウハウの蓄積や『見える化』を意識しないといけなくなった」と指摘。「ベテラン社員との勉強会を定期的に開くようになった」という本多貴博さん(31)の言葉からも、制度変更がもたらした影響の大きさがうかがえる。
一般社会ではウィズ・コロナの行動制限緩和が進んでいるが、発電所では厳しい感染防止対策が続く。「入社後の懇親会の回数は片手で数えられるほど。物足りなさはある」(古城さん)といった声が複数の社員から上がった。
火力は安定供給に欠かせない存在だが、近年風当たりが強まっている。対話ではネガティブな報道に対する受け止めについても尋ねたが、「需給に貢献することが第一」と現状を否定的に捉える声はない。火力を取り巻く環境が激変する中でも、変わらぬ強烈な使命感が現場のモチベーションを支えていることを痛感し、取材を終えた。
電気新聞2023年5月8日
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