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 人工知能(AI)に代表されるテクノロジーの進化によって、他のコモディティー商品と同様に消費者の購買行動が変化することが想定される電気。電力小売りビジネスは、電気だけでなく他の商材または顧客体験を売るという方向を目指す必要がある。一方で、テクノロジーの進化は家庭にも及ぶ。電力小売りの商機は、家庭の中の「生活」を取り込んだ「足し算のアズ・ア・サービス(As-a-Service)」にあるのではないだろうか。
 

新技術搭載のロボットが続々と登場。介護の世界にも

 
 テクノロジーの進化は、家庭の家電の顔触れも変えようとしている。

 例えば、アイロボット(iRobot)社の「ルンバ」。自ら床を動きながら、部屋のどの場所に障害物があるかをセンシングし、最適な動きを考えるAIを搭載したロボット掃除機は年々販売を伸ばしている。アイロボット社によると、「ルンバ」の国内販売は2016年10月時点で200万台を超えた。そのうち100万台は直近1年で販売したものだという。

「ランドロイド」は衣類を投入すると、衣類の認識、折りたたみ、仕分けまで全自動で行う
「ランドロイド」は衣類を投入すると、衣類の認識、折りたたみ、仕分けまで全自動で行う

 セブンドリーマーズの「ランドロイド」は、全自動衣類折りたたみロボット。画像解析に基づき、どのような衣類か見分けた上で、全自動で衣類をたたみ、仕分け、オンライン上で記録・整理し、コーディネートまでしてくれる。衣類の折りたたみという複雑な動きまでロボット技術は実現できるようになっている。限定予約販売の受付を開始しており、18年度中に出荷される予定だという。

 さらに、高齢化社会の進展を受け、今後拡大が期待されるのが介護ロボットである。サイバーダインが展開する「HAL」は、人が体を動かすときに脳から筋肉へ送られる信号を読み取り、介護の動きをサポートするように動く。既に一部の介護施設では導入が開始されており、介護される側も介護する側も高齢化が進んでいく今後の日本社会において、新たな必須家電として定着していくかもしれない。
 

消費者の「使ってみたい」を実現するビジネスに商機が

 
 このような新しいテクノロジーを活用した商品は、使った分だけ使用量を支払う、ペイ・パー・ユーズ(Pay per Use)型の利用モデルで浸透していくのではないか。特に、(1)高額だがこれまでにない体験を提供してくれるもの(ランドロイドなど)(2)一定の時期に集中して必要となるようなもの(介護ロボットなど)(3)今後の技術革新により、どんどんより良い商品が市場に投入されるもの(新テクノロジー製品全般)――といった商材については、利用したい意思が強くとも、購入をためらうことも多い。ペイ・パー・ユーズでまずはお試し、または必要な時期だけ使うといった利用モデルが家庭への導入を後押しするだろう。

 電気単体ではなく、こういった、「電気・家電を使った新しい体験を提供すること」、「利用モデルを含むプラットフォームを提供すること」に、電力小売事業者の商機があるのではないだろうか。また、ペイ・パー・ユーズ型では、電力の使用量も利用料金の中に含まれていくことが自然だろう。家庭であれば部分供給という位置付けになる。その場合、計量法や課金方法は一工夫・二工夫必要になるだろう。

テクノロジーが変える電力小売りビジネス 4回目図版
 4回にわたってテクノロジーが消費者の購買行動を変え、それに伴い事業者のサービス内容・提供方法を変えていく必要があるのではないかと論じた。テクノロジーは既存のビジネスモデルにとっては脅威であると同時に、これまでにない価値を顧客に提供するチャンスでもある。時流を捉え、より早く変化に対応できた事業者がコモディティー販売を脱し、高い収益性を実現していけるのではないだろうか。

【用語解説】
◆Pay per Use
課金方法の一つであり、使う度に課金する方法を指す。ペイ・パー・ユーズと呼ぶ。

電気新聞2018年3月12日

(全4回)