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前回、電気をはじめとするコモディティー商材のプロフィットとロイヤルティーは、AI(人工知能)の進化・普及とともに、様々な商材を集めて比較できるようなプラットフォーマーに移っていくと述べた。第3回ではもう一つの方向性として、専業ゆえに提供できる顧客体験サービスに正面から取り組むことを考えていきたい。
コマツ、カーシェア、オンサイト発電に見るビジネスの形
「モノ売りからコト売りへ」。このキャッチフレーズは至る所で聞かれる。確かに製造業をはじめとしたいくつかの会社は、機器販売のビジネスモデルから、自社製品を活用したサービス型のビジネスモデルへ舵を切っているように見える。
例えばコマツは単なる建設機械の販売から脱却し、IoT化された機械を活用し半自動制御された施工を行う、「スマートコンストラクション」というサービスを提供する。クラウドサービスは、一企業での「サーバーの所有」を不要とし、必要に応じた共有の「コンピューターリソースの利用」へと提供価値を変えている。
身近な例では、カーシェアリングサービスは顧客に対する提供価値を、車の「所有」から「運転」へと切り替えている。その中で、「運転」に必要ではあるがそれ以外の価値を生まないガソリンはサービスの一部として取り込まれ、顧客は別途ガソリン代を支払う必要がなくなっている。電力業界においても、「電力」は顧客に対する価値提供の部品として電気設備を活用したサービスに取り込まれるようになっていくのだろうか。
エネルギー業界では、かなり前から顧客への価値提供型ともいうべき、
アズ・ア・サービス(As―a―Service)型のビジネスモデルが登場していた。その典型が自家発電設備のオンサイト発電サービス=図=である。ユーザーは、設備購入のための予算措置や、燃料調達やメンテナンスの手間暇をかけることなく、必要な電力を購入できるというサービスである。対象設備は発電設備にとどまらず、電気で稼働するターボ冷凍機のような熱源機器までカバーする。
設備や製品に電気料金も組み込み、モノではなく、モノにより実現するサービスを提供する
一方、エネルギーを消費する設備についても、ファイナンスサービスを組み込んだアズ・ア・サービス型のビジネスモデルに近いサービスが登場している。LED照明などがその典型だろう。一般の蛍光灯に比べて初期投資負担が大きなLED照明を対象に、初期投資ゼロを売り文句にLED照明のリース、レンタルサービスが広がっている。さらに、小売店舗で利用される冷凍・冷蔵設備を対象に、ファイナンスだけでなく、設備の最適なオペレーションまでを含んだサービスとして、“食品を冷やす”という価値そのものを提供する事業者も登場している。
こうした法人向けにアズ・ア・サービス型で提供される電気設備は、いずれ、そのランニングコストとなる電気代を取り込んだサービスに展開していくことが予想される。
一方、家庭向けはどうだろうか。エアコンや冷蔵庫が、電気代を含んだアズ・ア・サービス型のビジネスモデルで提供される可能性はある。ただ、電気代を上乗せしてエアコンや冷蔵庫を購入することになる一方、残された電気設備に必要な電気代を消費者は引き続き支払わなければならないため、全体としてどれだけお得になるのか、消費者がこれを理解するのはなかなか難しい。これを「引き算のアズ・ア・サービス」と呼ぶとすると、消費者の理解を得やすいのは「足し算のアズ・ア・サービス」だと考えられる。
「足し算のアズ・ア・サービス」とは、今使っている家電製品をサービス支出として従来の支出から引き算するではなく、これまで利用したことのない新しい家電製品をサービス型で提供し、サービス支出として従来の支出とは別に足し算するような場合である。
その具体的な方法については、次回、考察してみたい。
【用語解説】
◆アズ・ア・サービス(As-a-Service)
日本語にすると「サービスとして」という意味。主にクラウドコンピューティングで用いられる言葉で、プラグイン型、かつ、従量課金型の業務・IT一体型のサービスを指す。頭文字を取って「aaS」と呼ばれる。「aaS」には様々な種類があり、必要なソフトウエアをネットワーク経由で必要な時に利用する「Software as a Service(SaaS)」、アプリケーションを実行するためのプラットフォームをネットワーク経由で利用する「Platform as a Service(PaaS)」などがある。「X as a Service(XaaS)」はこれらの総称。
電気新聞2018年3月5日