東京工業大学 環境・社会理工学院イノベーション科学系技術経営専門職学位課程教授  後藤 美香氏
東京工業大学
環境・社会理工学院イノベーション科学系技術経営専門職学位課程教授 
後藤 美香氏

CSRは新たな価値の創造のきっかけのひとつ
 
 企業の社会的責任(CSR)として、もうけを追求するだけでなく、顧客や従業員、社会、環境などに配慮した経営に取り組むことが求められている。重要な柱の一つに数えられるのが、エネルギー・環境を大切にするという視点だ。

 「企業にとってCSRはコストセンターと捉えられがちだが、新たな価値を創造するきっかけの一つでもある」。東京工業大学環境・社会理工学院の後藤美香教授はこう語る。エネルギー・環境を中心に、企業の競争力とCSRの関係に着目。CSRに投資することでどのような効果が上がるのか、ツールの開発や企業へのヒアリングを通じて分析している。
 
技術経営(MOT)を社会人教育の成功モデルに
 
 後藤教授は、技術経営(MOT)の専門知識を習得できる専門職学位課程/イノベーション科学系で教べんを執る。MOTの魅力は人材の多様性だ。年齢や国籍に関係なく、学ぶ機会を求めて多くの社会人や留学生が門をくぐる。実際、研究室に所属する十数人の学生のうち、半数以上が社会人。また後藤教授自身、電力中央研究所の上席研究員から転身した経歴を持つ。

 この多様性が研究に大きな刺激を与えている。企業でCSRや品質管理を担当しながらMOTを学びに来ている社会人学生などは、他企業の取り組みに関心が高い。分析ツールの開発にとどまらず、企業へのヒアリングが充実することで相乗効果が生まれる。

 そして何より、年齢や職業の違いを越え、学びに対する強い意欲を持つ者同士が議論できる環境は「学生にとっても私自身にとっても学ぶことが多い」と後藤教授。今後はフルタイムの学生と社会人、留学生が英語で議論する機会を増やすなどして、多様性を育みたいと意気込む。

 後藤教授には、MOTをいっときのブームに終わらせず、社会人教育の場として成功させたいという強い思いがある。「再生可能エネルギーだけで(エネルギーを)安定供給するのは現状難しい。資源に乏しい日本では、強い産業を育て、外貨を稼ぐしかない。その核になる人材を育てていくのが、これからの大学の役割だ」

電気新聞2018年5月7日