◇運用時の多様な状況変化を考慮/計画立案へ事前予測が有効

 マイクログリッドとは、DER(分散型エネルギー資源)群をシステム統合管理して商用系統から独立する配電系統である。DER大量導入どころかDERのみで需要に応える閉じられた配電系統だ。今回は同期発電機を有さない、太陽光発電や蓄電池のみを供給力とする小規模なマイクログリッドが対象。こうしたマイクログリッドへのDERMS無効電力制御の適用と、そのシミュレーションについて紹介する。

 独立した配電系統といえるマイクログリッドは、系統変電所に接続しないため、交流基準波形を自らつくる必要がある。その機能を担うのがGFMインバーターだ。瞬時電圧電流を計測しながら高速フィードバック制御して、電圧を維持しつつ基準波形を生成する。しかし、負荷の急変により電圧変動が限界を超えると基準電圧維持や基準波形生成ができなくなり、マイクログリッドの系統全体が停電する。

 ◇運用は電力まかせ

 現状の自治体などによるマイクログリッドプロジェクトの多くは、電源や負荷の定格値などを積み上げた計画だけで電力会社に工事・運用の検討を依頼するケースが多いようだ。DERによる供給力と需要の平均バランスがとれさえすればよい、というような計画だ。実際にはマイクログリッドとして運用した際の、系統内の多様な短時間変動の考慮が必要であろう。

 このため計画段階でGFMインバーターの過負荷特性やDERMS無効電力制御による電圧維持なども含めて、過渡的な重負荷の乗り切り、悪天候下の蓄電池寿命など、多様な動的状況変化を事前にシミュレーションして予測・解析することが非常に有効である。

 図1は、N研究所のDERMS―3Dシミュレーターによる小規模マイクログリッド内の電圧分布検討例だ。災害時などに系統から切り離されたマイクログリッドを想像する。何らかの要因でマイクログリッド内の避難所ビルといった需要家負荷が大きくなり系統電圧が下がり始めようとすると、図左端に位置するGFMインバーターは電圧を維持するため、付属電池からの電力供給を増やそうとする。

 このことが付属電池充電量を早く減らすことになり、マイクログリッド内への供給継続自体を短くすることになる。さらに事態が進展すればGFMインバーターの機能的な限界に到達。GFMインバーターは飽和状態となり、基準電圧が急激に下り始めて、ついにマイクログリッド全体停電に至る。このシミュレーターはこうした過負荷状態も含めた急激な状態変化をシミュレーションできる。

 ◇過大負荷にも対応

 図2は、マイクログリッドにDERMS無効電力制御を適用して、高負荷限界時にGFMインバーターの延命を支援するシミュレーションの例だ。DERMSがDroop Curve指令値の無効電力制御を適用して過大な負荷の変化に対しても系統電圧を保つよう協力してもらう。この結果、GFMインバーターを飽和領域から制御域に戻し、ひいてはGFMインバーターから系統への電流供給量を節約。災害時などのマイクログリッドにおける電力供給を継続する。こうした状況の模擬、検討が可能である。

 本連載を通じてみてきたように、DERMSシミュレーターは、近未来におけるDERが大量に導入された配電系統の電圧対策や、マイクログリッド計画におけるシステム制御といった課題の検討に有望な技術であるといえよう。

(この項終わり)

◆用語解説

 ◆マイクログリッド 商用系統の変電所から独立した分散電源だけからなる配電系統。

 ◆GFMインバーター Grid ForMingインバーターの略。マイクログリッドの基準電圧波形を生成する系統連系インバーター。

電気新聞2023年3月20日