◇電圧変動や逆潮流を動的に把握/系統を直感的に「見える化」

 前回は、DER(分散エネルギー資源)が大量導入された配電系統における革新的な制御システムDERMSについて紹介した。配電系統に分散するDERの無効電力を制御して、各地点の電圧変動を抑制するDERMS。その実装に向けた検討には、配電系統におけるDERなどを模擬することが欠かせない。今回は、DERMSの効果を「見える化」して、解析評価する動的なシミュレーターについて述べる。

 ◇分刻み、秒刻みで

 DERが大量導入された配電系統は、分単位で系統内電圧分布が変化する。このため単に定常値を足し算した合計値だけでは、系統電圧の変化する速さや場所的な分布を解析評価できない。「老後の家計シミュレーション」といった単なる仮定数値の足し算というレベルではないということだ。分刻み・秒刻みの変化が系統内に分布された状態で、通信を含めたリアルタイムで模擬できることがシステム計画上決定的に重要である。

 我が国は、シミュレーターによる広範囲な動作の概略把握より、実機による限られた平時の実験計測を重視する傾向が強い。しかし、革新的な手法を開発するにあたっては、実システム運用への橋渡しとして、動的動作の空間分布を同時に把握できるシミュレーターが重要である。本稿では、その一例として、開発中のN研究所によるDERMS―3Dシミュレーターを紹介しよう。

  図1に、DERMS―3Dシミュレーターのシステム設定画面を示す。従来のシミュレーターのように設備配置を上から見た2次元表示ではなく、系統システム構成を3Dで直感的に「見える化」できる。各設備をクリックすれば、それぞれの有効電力・無効電力を秒刻みベクトル円表示する。

 図2は、DERMS―3Dシミュレーターの秒刻みの系統電圧分布の変化をアニメーション表現する画面である(特許出願済み)。従来シミュレーターでは、各点の電圧や潮流を数値や時系列のグラフで表示していたため、空間的分布と時間変化を同時に捉えることが困難だった。DERMS―3Dシミュレーターでは、配電線上の電圧分布を「屏風」のように3Dアニメーメーション表示。DERの挙動シナリオに合わせて、配電系統がどのような状態になっているか、どこで・いつ問題となるような電圧変動や逆潮流が発生するのか、直感的に把握できる。

 ◇有意義なツールに

 当然のことながら、実装設計ではさらに精密な解析および設計が必要であるのは論を待たない。しかし、こうしたシミュレーターは、現実にはまだ存在しない近未来の状況を予測して、広範囲動作を机上検討でき、特にマイクログリッドプロジェクトの計画段階には有意義なツールとなるはずだ。次回はマイクログリッドのDERMSシミュレーションを紹介する。

電気新聞2023年3月13日