第2回は、無効電力による電圧制御の仕組みについて紹介した。第3回は、この無効電力制御を遠隔集中化して、需要家側にDER(分散エネルギー資源)が大量に導入された配電網の電圧を制御するシステムを紹介する。将来的に無効電力は市場で取引されるようになり、DERの発電や充放電と同様にアグリゲートビジネスの対象になっていくかもしれない。
 

従来の配電系統管理は低速

 
 第1回で説明した通り伝統的な配電系統管理は応答速度が遅く、DERが大量導入され分刻みで何百キロワットも変動しうる近未来の配電系統には対処できない。今回紹介するのは、需要家DERを遠隔集中制御する革新的管理方法、DERMS(Distributed Energy Resource Management System)だ。

 DEMRSは、米国電力中央研究所(EPRI)が命名した、配電系統に分散する需要家側DERなどの遠隔集中管理システム。配電系統の電力潮流や電圧分布の管理制御を目指して、DERおよび需要家負荷の有効・無効電力を制御する。本稿では特に無効電力による系統電圧分布の高速制御にフォーカスする。

 図1は無効電力による系統電圧制御の概念図だ。第2回で説明したように需要家負荷電流と電圧のカーブの時間的なずれ(位相差)、すなわち力率を制御して系統電圧を上下させる無効電力制御だ。図中右側の図は、電圧(Volt)が変化するとそれに応じて垂れ下がる(Droop)無効電力(Var)指令値ライン(Curve)が示されており、Droop CurveVolt-Var制御と呼ばれる。

 わが国では、系統連系機器ガイドラインなどを通じて、位相差がない状態=力率ゼロ、無効電力ゼロを目標、良い状態としてきた。一方、DERMSの無効電力制御は、逆転の発想で、現在の系統電圧の状況に応じてDroop Curveから制御目標値を算出して位相を制御。図1の点線部のように電圧が低い場合は無効電力を注入し、逆に高い場合は無効電力を注出する。

 図2にDERMSのシステム概念図を示す。需要家個々の機器それぞれの位相を制御すると管理対象が膨大になってしまう。このため、デマンドレスポンス(DR)などと同様に、いったんアグリゲーターに集約させる。

 配電系統指令所は、系統全体の状況を踏まえて図1のようなDroop Curveの最新版をアグリゲーターに配信。アグリゲーターは周期的に、カーブから無効電力指令値(目標値)を読み取って、配電網に分散する需要家ごと、機器ごとに必要な無効電力指令値として配分する。
 

高度な技術開発が必要

 
 以上のように概念としては比較的簡単なものだが、実装には高度な技術開発が必要である。米国ではフィールドテスト段階だが、我が国ではまず机上シミュレーションによるシステム方式検討の段階ではないかと考えている。そのためには、多様な条件下で系統内の電圧分布の高速な変化を模擬・表示することが重要だろう。次回はこうした模擬・表示を実現する、動的なDERMSシミュレーターを紹介する。

電気新聞2023年3月6日