出荷90万台も射程圏

 
 IH調理器市場が回復している。2022年度の国内出荷台数は、前年度比5.7%増の72万5千台となる見通し。新型コロナウイルス感染拡大に伴う工事停滞による落ち込みを脱し、本来の需要水準に戻ったとみられる。23年度の出荷台数は横ばいとなる見込みだが、買い替え需要のさらなる加速など、今後の展望には明るい材料も多い。脱炭素の流れを受けたZEH(ゼロ・エネルギー・ハウス)の普及も、市場拡大の後押しとなりそうだ。(矢部八千穂)

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 IH調理器は、特長である省エネ性や安全性の高さなどが認められ、オール電化の拡大とともに国内で普及が進んできた。ただ、10年度にピークとなった出荷台数は、11年3月に起きた東日本大震災後のオール電化に対する逆風によって急減速。その後は、オール電化住宅の黎明(れいめい)期に導入した家庭の買い替え需要やオール電化営業の再開などにより、15年度を底として住宅着工が低調の中でも増加基調を保っていた。

 しかし、コロナ禍が復調に水を差した。日本電機工業会(JEMA)の統計(21年度以降集計していない1口タイプを除く)によると、20年度の出荷台数は前年度比3.0%減の67万5千台。設置工事が進められないなど、コロナ禍の拡大による住宅着工の停滞が響いた。

 21年度からは社会のコロナ対応も進み、再び増加傾向に転じた。22年度は前年度比6%近い伸びで、東日本大震災後最多となるなど規模を回復する見通しだ。JEMAの高橋香苗・企画部統計課長は、この動きを「(コロナ禍により)落ちていた需要が戻ってきている」と説明する。

 今後の市場動向はどうか。23年度の出荷台数は同0.7%増の73万台と横ばいにとどまる見通しだが、将来を展望すると期待できる要素が多い。

 一つは、買い替え需要のさらなる拡大だ。IH調理器の耐用年数はおよそ13~15年。現在も黎明期に導入した家庭の買い替えが市場に貢献しているが、今後は00年代後半の最盛期に出荷された製品が耐用年数を大幅に超過。買い替え需要として顕在化し、市場をさらに押し上げることが予想される。

 「15年頃は40%程度だった(市場全体に占める)買い替えの比率が、現在は45%くらいまで上がっている」。IH調理器の製造を手掛ける三菱電機ホーム機器の樋口裕晃・企画統括部営業部長(肩書きは22年度末時点)はこう現場の実感を語り、買い替え需要が拡大していることを説明する。

 もう一つは、ZEH住宅との相性の良さ。熱効率が高く省エネ性を強みとするIH調理器は、高効率設備が求められるZEH住宅に適している。戸建ての新築注文住宅のZEH化率は年々上昇しており、政府は30年度以降に新設される住宅についてZEH水準の省エネ性を求めることも掲げている。こうしたZEH標準化に向けた動きも、IH調理器市場拡大の追い風となることが確実視される。

 ある大手メーカーの幹部は、今後の市場動向について「前年度比4~5%程度のペースで伸びていくのではないか」と展望。将来的には90万台規模まで出荷台数が拡大する可能性もあるとして、期待を寄せた。

 IH調理器メーカーは近年、IoT機能や時短調理、操作性・清掃性などに優れた新製品を続々と投入している。拡大基調にある需要を確実に捉え、市場全体の継続的な成長を実現していくには、こうした特長を周知し、いかに買い替え需要の掘り起こしやZEH住宅への採用につなげていけるかが重要になりそうだ。

電気新聞2023年4月13日