初回では配電系統にDER(分散型エネルギー資源)が増加し、電圧を維持するための技術革新が必要になっていることを指摘した。第2回はその有効な手段の一つとして期待できる無効電力制御について説明する。今回の連載で紹介するDERMSおよびそのシミュレーターを説明するのに不可欠な要素であり、少し難解かもしれないがお付き合い頂きたい。
波形の時間的ズレ
まず配電系統など交流電気回路の位相差について説明しよう。交流回路ではコイルやコンデンサーなど回路上の様々な要素の影響で、電圧と電流の波形に時間的なずれ(位相差)が生じる=図1右上。電圧と電流の位相関係を「回転するベクトル」で表現すると、図1左上にあるように位相差は角度φで表される。「交流の電圧と電流の波形には時間的なずれが生じることがあり、それは角度で表現できる」ととらえて頂ければよい。
電気の仕事量=電力とは、電圧と電流を乗じたものであるが、この位相差のために有効電力と無効電力という成分に分かれる。レールの上の車両を押して動かす仕事に例えてみよう。車両の後ろから斜め(角度φ)にずれた力をかけた場合、横方向に車両を動かすのに有効な力の成分と縦方向の無効な成分に分けられる。有効電力と無効電力の関係は、この2つの力の成分の関係に似ている。すなわち、電圧と電流の同一方向成分が有効電力、直角方向成分が無効電力ということだ。
有効な割合cosφ=力率を、電圧×電流にさらに乗じたのが有効電力=図1左下の右向きの太いベクトル。無効電力というと役に立たない印象を持つかもしれないが、後述する通り、配電系統の電圧維持には有用な成分である。
ベクトルで原理を
図2は、左が変電所、右が需要家という簡略化した配電系統モデルにおける、受電点の電流位相と系統電圧の関係を示す原理図である。図1左上のような交流電圧・電流ベクトルを使ってその原理を説明しよう。受電点の需要家における電流波形が電圧波形に対して、遅れ側=図2左下=か時間的進み側=図2右下=かで送電端電圧(Vs)と受電端電圧(Vr)の関係が変わる。ベクトル表現では、「遅れは右回り側に、進みは左回り側に方向がずれる」ととらえて頂きたい。
詳細な説明は紙幅の関係で省略するが、図2下の左右のベクトル図の通り、送電端から配電系統に沿って電圧変化をベクトル加法で合成すると受電端電圧が得られる。右下向きの太いベクトル(受電端電圧、Vr)の長さから分かる通り、進み側(右)は遅れ側(左)に比べて、受電端電圧が高くなる。
すなわち、受電端の負荷電流の位相を進めたり遅らせたりすれば、受電端電圧=その点における系統電圧を高く、あるいは低くすることができるということだ。これは、古くから系統電圧維持の基本として広く行われてきた。
DERMSはこの原理を用いて需要家DERの無効電力をITシステムにより高速制御する。
【用語解説】
◆無効電力 交流電力において電圧波形と電流波形がずれてエネルギーとならない成分。
電気新聞2023年2月27日