「新価値(新商品、新サービス、新規事業)」のコンペを行っている企業は多い。社内外の人たちに「次の価値を考えてもらおう」ということなのだろう。しかしながら、コンペから新しい価値はほとんど生まれてきていない。なぜなら、「その案がローリスクでハイリターンであることを証明しなさい」といった議論が評価側から出てくるからである。そのような新価値はそもそも存在しない。どうしてそのような議論になってしまうのだろうか。

 今回は、「新価値を生むことを、どういう問題だととらえればいいのか」について議論したい。
 

洞察するホームズ

 
 新しい価値を発想できる人は、ワトソンではなくシャーロック・ホームズのような人だ。

 「受験で正解を出すのがうまいリニア思考ができる」というより、「世の中で必要とされていることについて意外な真相を洞察できる、リフレーム思考ができる」人たちである。つまり、真剣でクリエイティブで「これからの世の中について洞察できる」人たちだ。

 また、新価値創造をできる人たちは、「こういった世の中をつくっていきたい」という意志を持っている。

 図1に示すように、新しい価値を生むためには、「インサイト:世で起こっていること(ファクト)をどうとらえるのか」と「フォーサイト:インサイトを踏まえて、どういう世の中にしたいのか」の両方が必要である。この「世をどうとらえるのか」と「どういう世の中にしたいのか」は、その新価値の世界観だといえる。

 だからといって、こういった発想をする人たちに、既存の組織の枠組みで活動してもらっても、成果にはつながらない。なぜなら、従来の組織はリニア思考で成り立っており、すぐに「それは正解なのか?」と問われてしまうからだ。新価値に正解はない。必要なのは正解ではなく「世界観」なのである。

 多くの企業で新価値創造がうまくいっていない根源的な理由がここにある。つまり、新価値創造をどういう問題として解こうとするか、が違ってしまっているのだ。
 

厄介な問題を解く

 
 問題には、大きく分けて2つの種類がある。「複雑な問題(complex problem)」と「厄介な問題(wicked problem)」である=図2。複雑な問題の代表例はアポロ計画だ。「人をどうすれば月に送れるか」はとても複雑な問題だが、正解がある。アポロ計画と同じことを今行えば、同じように人を月に送ることができる。

 一方、厄介な問題の代表例は「NASAは今後何をしていこう」だ。正解はないし、状況は時代によって変わる。

 新価値創造は、正解のない「厄介な問題」だ。しかしながら、多くの企業はこれを「複雑な問題」として解こうとしているのではないだろうか?アポロ計画のようにとらえるからこそ「その新価値の案が99%うまくいくという根拠を示せ」といった議論が始まってしまう。

 新価値創造を成功させるためには、「どの時代にも通用する正解」を探すのではなくて、「世の中をどうとらえて、どういう世の中をつくっていきたいのかという世界観」が必要なのである。

電気新聞2023年2月6日