フルハーネス型の墜落抑止用器具のイメージ(出典:厚生労働省資料)
フルハーネス型の墜落抑止用器具のイメージ(出典:厚生労働省)

 厚生労働省は、高所作業中の墜落事故を防ぐフルハーネス型安全帯について、着用を義務付ける労働安全衛生法に基づく新ルールを2019年2月から適用する。22年1月からは、現行規格品の着用・販売を全面的に禁止。これを受け電力各社では、フルハーネスの仕様などについて安全性と作業性を総合的に考慮しながら検討を進めるとともに、全電力大でも意見交換を行っている。

 厚労省の調査によると建設業における死亡災害、死傷災害はともに減少傾向にあり、2016年の死者数は294人、死傷者数は1万5058人で、2年連続で過去最少となった。ただ、建設業における死者数が全産業の3分の1を占めており、他産業と比べて一番多い状況に変わりはない。

 事故の型別にみると死亡災害、死傷災害ともに「墜落・転落」が最も多い。こちらも減少傾向にあるとしているが、墜落・転落に起因する死亡災害は45.6%(134人)、死傷災害は34.4%(5184人)で、最も比率が高い。このことからみても、墜落・転落災害の防止に重点を置いた取り組みが急務といえる。

 新ルールでは、高さ6.75メートル以上の場所での着用を義務化。建設現場では5メートル以上の場所での着用を求めている。厚労省によると、この建設現場に電気工事は含まれていない。ただ、電柱の高さは地上に出ている部分で十数メートル。柱上で作業を行うとなると、5メートルは優に超えてしまう。さらに、昇柱時に用いるU字吊りを途中でフルハーネスにつけ替えることも現実的ではなく「低い箇所からフルハーネスを使うことを検討している」(厚労省)という。

 現在、電力各社で施工者の意見も聞きながら検討を進め、その内容を全電力大の会議で持ち寄り、意見交換を実施。検討状況は電気工事会社に順次報告している。意見交換では「夏場に着用する空調服のファンがふさがれないようなもの」「胸や背中部分にD環(命綱に当たるロープとベルトの結束部)が来ないようなもの、もしくはD環を(感電しやすい)金属製ではないものにしてほしい」などの意見が上がっている。

 電気事業連合会は「鉄塔や電柱上など電力業界特有の作業がある」ことから「国の規格やJIS(日本工業規格)の動向を確認しつつ、安全性確保のためにどのような機能・構造が必要となるかを検討している」と回答。空調服やD環の位置の課題などについても安全性向上を大前提に、作業性を総合的に考慮して検討を進めている。

 厚労省によると、安全帯の買い替えに対する補助金の導入は「考えていないし、予算要求もしていない」という。単価が2万~3万円程度と比較的安いことに加え、手続きの煩雑さを検討しない理由に挙げる。

 フルハーネスの仕様を全電力で統一した場合、単価が安くなるかもしれないが、運用面などで問題が生じる可能性もあって、仕様の統一を見送る方向だ。

 メーカー推奨の耐用年数は2~3年。22年1月までの猶予期間内に買い替え時期を迎えるため「その際にフルハーネスにしてもらう」(厚労省)考えだ。

電気新聞2018年4月19日