過去10年でセンサーのコストは半減し、通信コストは約40分の1まで低下。コンピューターの性能は飛躍的に向上し、情報処理コストは約60分の1に低下した――。

 こうした数字が意味するのは、IoT(モノのインターネット)技術で収集された膨大なデータを蓄積し、人工知能(AI)も活用しながら解析・利用できる社会基盤の成立だ。「デジタル化」の波は、あらゆる産業に押し寄せ、日々の暮らしに変化をもたらしつつある。

 電気事業も例外ではない。こうした変化は、電気事業の根幹すら変える可能性を秘める。電力会社が擁する多様な設備や人員、顧客基盤、長年培ってきたノウハウなどは、膨大なデータを生み出す固有の資産だ。プレーヤーとしてのポテンシャルは大きい。
 
 ◇新たな収益源
 
 電気事業を取り巻く環境も変化している。エネルギーの枠を超えた競争や再生可能エネルギーをはじめとする分散型電源の導入拡大に加え、2020年度には発送電分離(送配電部門の法的分離)を控える。さらに、人口減少に伴う国内市場の縮小も一層深刻さを増していく課題だ。

 デジタル技術は、こうした課題解決に寄与する手段ともなり得る。それは単に業務の合理化やコスト削減だけではない。従来の事業領域にとらわれない、新たな収益源につなげることも重要な視点になってくる。

 ただ、デジタル技術の潮流は、産業の枠組みそのものを変えるインパクトを秘める。その一例は自動車業界だ。近年はカーシェアリングやスマートフォンによる配車サービスが急速に普及した。従来のように車自体を購入・所有するのではなく、「移動という目的を達成するサービス」に対価を払うスタイルへ移行しつつある。

 こうした変化に伴って、自動車大手とIT・サービス関連など異業種企業との協業も珍しくなくなった。日本自動車工業会の西川廣人会長(日産自動車社長)は3月の会見で、「C(消費者)の部分でノウハウを持つ業界との連携は、ますます多くなる」との見方を示す。

 もう一つの大きなトレンドとなる車の電動化を巡っては、電力業界との連携も始まった。例えば、日産は東京電力や関西電力のVPP(仮想発電所)実証事業に参画。日産の加部俊・グローバルEV本部EVオペレーション部課長代理は、「EV(電気自動車)は移動体としての価値だけでなく、停車時に蓄電池として使えることが魅力」と指摘する。

需給の調整力としても活用が期待されるEV(写真は日産の新型「リーフ」)
需給の調整力としても活用が期待されるEV(写真は日産の新型「リーフ」)

 
 ◇インパクトは
 
 再生可能エネの拡大で系統運用が複雑化する中、EVがVPPを構成する「分散型リソース」の一つとして新たな調整力を提供する可能性がある。そうなれば需要家は一方的に電気の供給を受けるだけではなく、EVによる調整力を提供して対価を得ることになる。大容量の蓄電池を搭載したEVの普及は、従来の電力会社と顧客との関係性を変えるインパクトを併せ持つ。

 あるいは電力会社自らが、運転が自動化された多数のEVを統合制御するアグリゲーターとなり、調整力を活用しつつ、消費者に対して移動・輸送サービスを提供する。異なる産業の境界が消失し、多様なプレーヤーが連携してサービスを競う将来には、そんなビジネスも登場するかもしれない。
 
 第4次産業革命の動きが本格化する中、電力業界でもデジタル技術を取り入れる動きが加速している。小売り全面自由化と同じタイミングで起こる変化に対し、事業者はどう対応していくのか。電気事業に与えるデジタル技術の可能性などを追った。

電気新聞2018年4月5日

 
「変化を追う 第2部・デジタル技術の可能性」は現在、電気新聞本紙で連載中です。電気新聞本紙または電気新聞デジタルでお読みください。