クラウドサーバーでEVバッテリーの動態をチェックし、これから走行する環境などを考慮して、バッテリーの各セル温度やState of Charge(SoC)バランスなどを事前最適化するサービスが、欧米で開始されている。完成車メーカーやEVシステムの1次部品メーカー(ティア1)による対応だけでなく、EVバッテリーと電力アンシラリー市場をつなぐシステムを構築している欧米のVehicle to Grid(V2G)アグリゲーターも、類似の解析を行っている。
EVと他機器統合
EVの走行・充放電量の履歴や温度等変化のデータから、どのようにEVバッテリーが反応して経年劣化しているか、また今後はどのように充放電管理すべきかを導き出す。そして「どのタイミングで、どのくらいの容量をV2H・V2B・V2Gそれぞれに給電できるか」を判断するソフトウエア開発が活発になっている。
この拡張版として、EVバッテリーが、システム連系している家庭・事業所内の蓄電池などとどのように充放電を分担して、同内設置の太陽光発電からの電力を分け合うべきかの統合解析も行われている。これを個別の施設内だけでなく、EVが重点配置された「特定の配電エリア全体で充放電等の最適値を導き出す」ことを狙っている。
この統合システム化はV2Gアグリゲーターだけでは実現できず、完成車メーカーの協力(特にEVバッテリーの動態情報や管理方法開示など)のほか、配電網で再エネやメガワット級蓄電池などを活用して電力アンシラリーに貢献している仮想発電所=Virtual Power Plant(VPP)企業との連携も不可欠である。欧米では、VPP企業が再エネや蓄電池、他発電機器を管理運用し、V2GアグリゲーターがEVバッテリーの充放電を最適化して連系することで、特定配電エリアのグリーン度の最大化や運用コスト最小化を図る開発が行われている。
国内も対応加速を
この統合システム化により、EVバッテリー群の容量が、電力アンシラリーの最低容量である500キロワットに足りないケースでも、他発電・蓄電機器と連系する事で参加基準を満たす事が可能になる。実用化をにらんで、前回述べた課題であるEVバッテリーと電力インフラ側の安定した通信の確立やEVバッテリー品質の要件詳細化が、米国などで議論されている。
またEV側でも、この全体最適化ソフトウエアを同バッテリーやインバーターなどで機能対応できる拡張性システムを開発中である。初回に述べた「1秒間に数十兆回以上の高い演算量」を持つ統合ECUでのOver the Air(OTA)によって、この全体最適化ソフトをEV側にも取り込み、同バッテリーの温度管理や充電系ECUの充放電制御アルゴリズムをV2Gなどにも適合させる。これにより、電力アンシラリー給電でEVバッテリーが劣化するのを防ぐ事も狙っている。
ただし、実用化の最大の課題は、「このシステム統合のコストを誰が負担するのか」だ。電力アンシラリーサービスでの収入だけでは賄えない可能性が高く、グリーン証書の獲得とその売却、充電利用料金との混合サービス化、OTAの他機能分との融合化などが模索されている。また、V2Gサービスの収入を完成車メーカー、V2Gアグリゲーター、VPP企業、EVユーザー間でどう配分するかの課題もある。単価が安い電力アンシラリーサービスの場合だと、関係者間の合意を得るのは難しいだろう。
これらのネックのため、普及には時間を要する。しかし、既に欧米中で開発が進んでいるのをにらみ、国内関連メーカーも、充放電容量の現行値2倍以上の増強のほか、「VPP―V2G統合機能を取り込める関連ECU群の制御アルゴリズム構築やミドルウェア適用」などを行う必要がある。ビジネス面でも、欧米V2Gアグリゲーターや充電インフラインテグレーターとの密接な関係を構築していく必要がある。どの国で、どのV2Gアグリゲーターやインテグレーターが勢力を伸ばすかの見極めも重要で、その競争力の優劣が明確になりつつある。
電気新聞2022年12月26日