初回で述べた今後のEV性能やそのアーキなどの変革をまとめると、図1のとおりである。この変化に対して、充電側の電力インフラも状況が変わりつつある。欧米では、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーの発電量増加によって、電力運用の慣性力が低下している(自律的に周波数変動幅を抑えるガバナーフリーの低下)。加えて、近年の気候変動などが相まって、電力需給が逼迫し、周波数や電圧の急変動で電力網が不安定化するケースが増えている。この系統安定化にEVバッテリーが貢献できる可能性が生まれている。

 

需要側設備の活用

 
 系統安定化のため、送配電網に各エネルギーストレージやリチウムイオン蓄電池などを設置し、周波数変動を抑える試みが2010年代から活発化している。これに加えて、需要側の分散型エネルギー設備(Demand Energy Resource:DER)を活用して、電力消費量を抑えたり、ほかに融通したりする電力アンシラリーサービスの拡充も進んでいる。

 このサービスは、系統運用機関の指令が出てから、対象設備が応答する時間が短いほど、取引単価が高い傾向がある。米国全体では、数秒で指令応答して数十秒間稼働する周波数調整市場や、5分・15分・30分などの給電を行う予備力市場、ランプ変動やダックカーブ、ピークシフトなどの数時間レベルの給電サービスも含めると、2020年代半ばの市場規模は100億ドルを超える見通しである。

 EVバッテリーもDERの一つとして、アンシラリーサービスへの参入が検討され、各国でEVと電力系統をつないだ実証実験が行われている。アンシラリーメニューは豊富にあるが、欧米での同市場の方向性としては、「よりリアルタイムに近い調整(例:当日取引なら30分前より5分前)」で系統安定化させる運用になりつつあるため、EVバッテリーとしても、その応答性の高さや瞬動予備力の特性が期待されている。既にEVにも、前回述べた800Vモジュールの構成部品の一つであるAC―DCコンバーターに、電力側に逆潮流を行う双方向機能を実装しており、その放電容量も、交流で9.6~11キロワット帯まで拡大している。住宅内への給電(Vehicle to Home:V2H)に数日間対応できるレベルに達しており、次のステップとして、直流給電のアンシラリーサービスも検討されており、現在60キロワット以上で実証実験されている。

 

EVも取引参加か

 
 ただ、EVバッテリーのアンシラリーサービス向け実用化は、20年代半ばまで難しいと見られている。欧米でのボトルネックは、管轄配電網の電力需給一致義務がある配電会社や電力小売会社が、EVバッテリーの活用にまだ懐疑的である点が大きい。完成車メーカー側も、走行や車内デバイス向け給電以外の別用途に、同バッテリーを使うのはできれば避けたいと考えている面もある。実用化の観点からは、(1)電力アンシラリーに供給するには最低500キロワット以上の容量が必要であるが(米国)、EVバッテリーは1台あたりの容量が少ないため、分散する同バッテリー群を最適のタイミングで同時に集めて放電しなければならない、(2)現状、電力側とEV側の安定した通信品質が確保できていない、(3)EVバッテリーを電力アンシラリーに活用するための入札要件や品質定義の詳細化がまだ不十分、などが挙げられる。そのため20年代半ばまでは、電力需給逼迫が見込まれる夕方から夜間初めに掛けての充電回避や、EVをつないでいる各家庭やオフィス、事業所で同バッテリー給電分を自家消費するV2HやVehicle to Building(V2B)での実用化にとどまる可能性が高い。

 その中で、ブレークスルーする可能性を秘めているのが、EVや、各家庭・施設での発電・蓄電・負荷機器、そして各電力取引所などをつなぐ連系システムだ。それぞれをリアルタイム監視しつつ「全体の最適化を秒単位で判断・学習・予測していく」統合システムになる。最終回では、この統合化の可能性について述べる。

電気新聞2022年12月19日