強い寒気や雪の影響で、1月下旬から2月にかけて厳しい需給状況に陥った東京電力パワーグリッド(PG)エリア。経済産業省などの事後検証を通じて、危機の実態が少しずつ明らかになってきた。首都圏で大雪が降り、需給逼迫の起点になった1月22日には、同エリアの揚水発電量が5千万キロワット時を超過。電力広域的運営推進機関(広域機関)が公表した発電可能量(推定値)8千万キロワット時弱の相当部分を1日で使い切っていたことが分かった。
◇電源Ⅰ’を13回発動
東電PGエリアでは1月22~26日、2月1~2日、2月22日に厳しい寒さなどで電力需要が急増した。東電PGは当該期間中、10年に1回程度の猛暑や厳冬に備えて確保している調整力「電源Ⅰ’(イチダッシュ)」を8日間で計13回発動。他エリアからの融通を7日間受け、安定供給を維持した。
経産省や広域機関は、一連の経験を制度設計などに生かそうと、審議会の場で検証を進めている。詳細が判明するまでには一定の時間がかかりそうだが、この間に公表された数値から得られる教訓は少なくない。
広域機関が今月5日の専門委員会で示した資料では、東電PGエリアの揚水発電量の推移が初めて明らかになった。一部は東京電力エナジーパートナー(EP)が自らピーク電源として調達した可能性もあるが、大半は東電PGが運用したとみられる。
目を引くのは需給逼迫の起点になった1月22日の発電量が、週内最大の5070万キロワット時(速報値)に達した点だ。
広域機関は簡易シミュレーションで、1月22日時点の揚水発電可能量を8千万キロワット時弱と推定。同日だけで発電可能量が3千万キロワット時以下に落ち込んだとの試算を示した。その上で、融通を行わなければ1月25日には発電可能量ゼロに陥っていたと分析した。
1月22日の揚水発電量が増加した大きな要因とみられるのが、大型火力電源の脱落だ。経産省・資源エネルギー庁は今月12日の電力・ガス基本政策小委員会で、常陸那珂2号機(石炭、100万キロワット)、鹿島6号機(石油、100万キロワット)、広野4号機(石油、100万キロワット)が計画外停止していたと公表した。
ピーク時の供給を支える電源がトラブルで立ち上げられず、穴埋めを担った揚水が発電可能量を急激にすり減らしていった――。広域機関とエネ庁の資料からは、1月22日のそんな状況が読み取れる。
同日のインバランスは日量79万キロワット時(関東エリア、速報値)と少ないが、調整力の役割を担う火力の脱落で生じた「見えないインバランス」への対応を迫られた形だ。
◇危機の連鎖続く
その後も危機の連鎖は続く。1月22日は予報に基づき、降雪による太陽光の発電量低下を織り込んでいたが、翌日以降もパネルに積もった雪が解けず、発電量が事前予測を大幅に下回った。
この結果、1月23日には太陽光の発電量予測値からの下振れを原因とした不足インバランスが大量に発生。不足分を埋めるため、初日で“貯金”の多くを失った揚水を使い続けなければならない状況に陥った。
さらに、広域機関は簡易シミュレーションの中で、1月22日時点の火力の脱落が50万キロワット少なければ、その週の融通が回避できたという推測を示した。ここで注目されるのが、同日のエリア内融通の可能性だ。
エネ庁が1月末の基本政策小委員会に出した資料によると、1月22~26日にかけて、日本卸電力取引所(JEPX)の1時間前市場での約定量が急増したことが分かっている。詳細な分析はこれからだが、東電EPが供給力確保義務を果たした上で、それを上回る予備力を市場に出したことが要因という見立てがある。
一方、市場に出した玉は関東エリアに流出する可能性もある。需給状況が極めて厳しい状況下で、市場に出す玉をエリア内の調整力として活用する余地がなかったのかという点は、積み残しの論点といえそうだ。また、降雪が太陽光の発電量に及ぼした影響も現時点で明確に分かっておらず、今後の検証が待たれる。
電気新聞2018年3月20日