米国のカリフォルニアなどの一部州、欧州主要国、中国における乗用車販売の電気自動車(BEV、以下EV)の比率が増加基調にあり、主要14カ国の2022年10月時点で17.7%を占めるまでに上昇している(マークラインズ社調べ)。ただ、現状のEV構造や性能は、今後20年代半ばに向けて大きく変革していく。このEV変革に同期して、電力インフラとのシステム連系も本格化しつつある。
 

進むモジュール化

 
 欧米中のEVは、今後、充電および駆動電圧の主流が400V帯から800V帯に移る。これに伴い、インバーターやモーター、減速機を組み合わせるeAxle搭載だけでなく、400Vから800Vに昇圧するDC―DCコンバーターやAC―DCコンバーターの充電系も統合したモジュール化が進んでいく。この800V帯インバーターのトランジスタやダイオードも、すべてSiC(炭化ケイ素)にする=All―in SICに変え、高電圧下での高速スイッチングロス低下や冷却などの効率向上が実現されていく。最終的には、これら部品やモジュールの組み替えで多様なEV開発を行う「レゴ型モデル」が主流になる見通しだ。


 また欧米では、EVの構造・性能変革に合わせて、充電インフラの容量もアップしていく流れだ。交流(AC)は現在主流の7.2キロワット以下から、11~22キロワット範囲に、直流(DC)は、50キロワット以下から、100~150キロワット帯を重点配置する方針に。大容量化で充電時間を削減し、航続距離300キロメートル以上を15分以下充電に短縮することを目標にしている。充電スタンド設置も、これまではベンチャー系が主導していたが、近年は、BPなどの石油メジャーやABBなどの重電大手が、先行ベンチャー勢を買収し、充電インフラの大規模投資を主導している。800V帯EVの開発を先導している完成車メーカーのVWグループやGM、現代自動車などは、既にこれら充電インフラのインテグレーターと密接な関係を構築し、EVと充電インフラの相互機能調整をした開発が行われている。EVの800V化と、インフラ側の容量増強もその一環だ。

 加えて、次世代EVは、アーキテクチャー(車両の全体構造)自体も大きく変わっていく。現状は、バッテリーやモーターなどのパワートレイン系、ブレーキやパワーステアリングなどのシャシー系、カメラやミリ波レーダー、LiDARなどの安全系、カーナビやヘッドアップディスプレーなどのコックピット系のドメインが個別に、または一部がつながる分散型で制御されている。今後は、車両の頭脳になる1~2個のセントラルコンピューターを中心に、複数のドメインを統合したECU(電子制御ユニット)群と、そのECU間をデータスイッチング機能であるゾーンECUでつなぎ、イーサネットで高速通信する統合型制御が中心になる。このアーキテクチャー変革は、800V帯EVとも開発同期化している。

 

他と連動して更新

 
 新しいアーキテクチャーでは、コアになる統合ECU群の演算処理能力は、現行の1秒あたり1兆回未満から、20年代半ばに掛けて数十兆レベルに向上し、最大数百兆回のEVも登場してくる。また、イーサネット、つまりインターネットプロトコル網での高速通信制御になるため、外部のクラウドサービスとつながって更新された機能が、そのまま関連する車載ECU群に反映され、性能アップデートすることが可能になる。ECUの機能構成としても、ソフトウエアで判断・制御する比重を増やし、拡張的なOSやミドルウエアを実装する事で、このソフトウエアアップデート(Over the Air:OTA)を容易にしていく方針だ。

 充電・駆動機能の高度化は、このOTAと、各データの学習・予測機能の進化に同期するかたちで進む見込みだ。次回以降はその動きと、EVバッテリーと充電インフラ、その電力系統網の取引市場とのシステム連系動向について述べる。

電気新聞2022年12月12日