オーストラリア産高品位一般炭の相場が急落している。1月初めまで1トン=370ドル前後だった期近物の価格は2月3日の終値で236ドルをつけ、10カ月ぶりの安値となった。暖冬や風力設備の高稼働で欧州天然ガス価格が下落し、豪州一般炭を含む石炭市況にも波及したとみられる。春節休みでエネルギー需要が減った中国の動向も影響しており、市場関係者は「欧州と中国のエネ需給が今後の市況を左右する」とみる。

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 豪州一般炭の先物価格(2月物)は1月半ば以降、急激に下降。2週間余りで約100ドルという、異例の下げ幅となった。
 

欧州のガス貯蔵回復

 
 要因の第一は欧州ガス価格の下落だ。昨年10月に一時100万Btu(英国熱量単位)当たり100ドルに迫った指標価格「TTF」は、今年1月末までに20ドル前後へ低下。昨年から続く欧州の暖冬が原因で、発電や暖房に使うガス需要が減った結果、地下ガス貯蔵の充填率が昨年2月上旬の30%台を大きく上回る69.84%(2月3日時点)となっている。

 ガス需給が緩和されたことで一般炭価格も低下した。昨年11月末以降、下落基調にあった欧州一般炭価格(ロッテルダム先物、2月物)は1月下旬に2割以上急落。欧州への輸出が多い南アフリカ産一般炭価格も同じ傾向をみせており、豪州炭価格も世界的な石炭相場の下落に追随したとみられる。

 1月下旬には、1週間以上にわたる中国の春節休みがあった。産業を中心にエネルギー需要が減少する上、石炭やLNGなどの先物市場で中国系の参加者が減る。中国は今冬から豪州一般炭の輸入を事実上再開しているものの、「春節休みで(中国への輸出量が最も多い)インドネシア炭の需給も緩んでいる。豪州炭の輸入も鈍化したのではないか」(石炭業界関係者)との見方が有力だ。
 

高騰リスク依然大きく

 
 今後の一般炭市況はどうなるか。複数の市場関係者は「欧州と中国のエネルギー需給による」との見解を示す。

 低気温や風況の悪化で欧州のガス需給が逼迫すると、代替として石炭の輸入量が増え豪州一般炭価格に上げ圧力がかかる可能性が高い。新型コロナウイルス関連の規制を緩めた中国で今後、スポットLNGの需要が増えると、ロシア産ガスに代わるLNGを集めにくくなった欧州は石炭の輸入を増やす――。こうした構図が考えられるという。

 ある市場関係者は「今は暖冬や春節の恩恵を受けて、ひとまず(市況が)小康状態に入ったという認識だ。今後の気温や政治・経済情勢次第で、すぐに1トン=400ドルの世界に戻る可能性もある」と語る。

 豪州からの輸出状況にも不透明感が漂う。豪主要港ニューカッスルの石炭船積み量は2022年に過去10年間で最低となった。現地報道などによると、今年1月の輸出量も前年同月を大幅に下回る公算が大きい。豪州一般炭の価格高騰リスクは依然として大きく、電力各社は石炭調達における一段のリスクヘッジを求められそうだ。(荻原悠)

電気新聞2023年2月8日