東京電力社員が自ら企画・編集する『はいろみち』
東京電力社員が自ら企画・編集する『はいろみち』

 東京電力福島第一原子力発電所の廃炉をいろいろな観点から切り取り、関係者の思いとともに伝える情報誌がある。東電ホールディングス(HD)が昨年4月に創刊し、隔月で発行する「はいろみち」だ。取材や編集を行うのは、福島第一で働く社員。最新号の取材と編集を担当した3人が誌面に込めた思いに迫った。
 
 ◇率直な声紹介
 

 しんしんと雪が降る1月上旬の岩手県一関市に、東電HDの広報担当者の姿があった。福島第一廃炉推進カンパニー廃炉コミュニケーションセンター所属の川島伸介さん(36)、吉崎沙紀さん(29)、上野理菜さん(26)だ。同市にある一関高専を「はいろみち」で紹介するため、福島第一から車を走らせてきた。

 きっかけは、昨年12月16日に福島県楢葉町で開催された「第2回廃炉創造ロボコン」。大会には全国15校・16チームの高専生が参加し、福島第一の廃炉を想定して製作したロボットの課題解決能力を競った。一関高専からは2チームが出場。東電HDの3人も見守る中、全体の2位に当たる優秀賞と特別賞を獲得した。

 「福島第一と同じ東北にある一関高専の高専生が、ロボコンへの参加を通じて何を感じたのか、指導した先生の声と合わせて紹介しよう」。「はいろみち」を創刊号から担当する川島さんは、一関高専に取材を申し込んだ。

 「ロボット製作で工夫したことは?」。取材当日、3人はロボコンの参加者にいくつも質問をぶつける。「廃炉現場で作業をする上で、有線だと線自体が邪魔になると考え、無線で操作できるようにした」。技術者としての気概にあふれた高専生の受け答えも、漏らさず書き取った。

 「事故による問題が全然解決していないと強く感じた」。取材の途中、福島第一を視察した学生の一人がこう漏らす場面があった。この言葉は誌面でも紹介している。川島さんは「廃炉へのネガティブな感想も素直に伝えたい。社外の視点はできるだけ取り入れる」と強調する。
 
 ◇使命感伝える
 
 東電HDが発行する情報誌でありながら、社外の人々が多く登場するのも「はいろみち」の特徴だ。最近の誌面では、経済産業省・資源エネルギー庁や内閣府の関係者へのインタビューも掲載した。「社外の方が福島の地に足を着け、廃炉のために活動していることを知って頂きたい」

 「はいろみち」の誌面には、他にも多くの記事が載る。例えば、福島第一で測定する年間7万件の放射線データから一つを取り上げ、測定値の意味合いを解説するコーナー。最新号では、昨年12月から担当となった吉崎さんが編集を行った。

 福島県大熊町出身の吉崎さんは、入社後に福島第一の運転員を経験。その後、産休中に大熊町の自宅で被災した。復帰後は放射線管理の仕事を担当しており、放射線データの紹介ではこれまでの経験が生きた。

 福島第一の景色は事故を境に大きく変わったが、現場に出れば昔からの仲間に出会う。「人の思いを紹介して廃炉が進むわけではないけれど、ここで働く人たちが同じ目標に向かって、使命感を持って働いていることを伝えたい」
 
 ◇先頭を切って
 
 最新号を担当したもう一人の上野さんは福島県双葉町出身。念願だった福島第一の運転員となったその年の3月、現場パトロールから事務所に戻ったところで震災に遭った。福島第一で働いていた女性には避難指示が出され、無念の思いで現場を後にした。

 震災後は、汚染水処理業務や視察者の案内を担当。「はいろみち」の編集に関わるのは昨年11月からだが、実は昨年8月発行の第3号に登場している。

 上野さんが登場したのは、震災当時から廃炉作業に取り組む所員が、自身の廃炉への思いを語るコーナー。「地元出身の私が先頭を切って、いま感じていることを伝えよう」と立ち上がった。反響は大きく、多くの人が手にとってくれたことがうれしかった。「今後は地元育ちの感覚を生かした情報発信をしていきたい」と抱負を語る。

 「はいろみち」は福島第一の視察者らに配っており、福島県楢葉町、広野町、川内村、葛尾村では全戸配布が実現している。創刊号の発行部数は約1万部だったが、現在は約2万部に増えた。「調整は要るが、全町避難が続いている双葉町や大熊町の方々にもお届けしたい」(吉崎さん)

 福島第一の廃炉は30~40年かかるとされている。川島さんは「長い年月がかかるからこそ、地域の方々のご理解が大切。『はいろみち』は皆さんに情報を伝えるツールとして、今後も大事にしたい」と力を込める。

電気新聞2018年3月12日
 
<外部リンク>
廃炉情報誌『はいろみち』(東京電力ホールディングスホームページ)