空飛ぶ「クルマ」とは言うものの、地上と異なり大空には信号も標識も道路もない。何もない空間を安全に飛ぶためには、従来にない高度なナビゲーション・システムが必要となる。今回は地上システムでも重要な空域管制システムと、それを支える5G(第5世代移動通信方式)網を紹介しよう。

 

航空業界のDX

 
 2026年頃から、米国では空飛ぶクルマによる空港送迎サービスが計画されている。当初は、空港管制官に頼る従来の管制方法で運行される。しかし、将来的には人手に頼らない管制自動化を狙っている。

 現在の航空管制(ATM:エアートラフィックマネジメント)は、パイロットと管制官が無線(音声)でやり取りしながら管理する。米国では1日5万回を超える離発着が行われているが、管制官とパイロットの「言葉による管理」は限界にきており、増便の余地がなくなろうとしている。

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 空飛ぶクルマの飛行量は、商業航空機の数百倍と予想されており、管制官に頼っての管理は不可能だ。そこで「人」つまり管制官やパイロットに依存しない自動システムが欠かせない。これは航空業界における一種のDXとも言える。それを担うのがUATM(Urban Air Traffic Management)と呼ばれる自動管制システムだ。

 UATMの起源は、07年からNASA(米連邦航空宇宙局)が商業ドローン管制をするために開発してきたUTM(無人機空域管制)システムにある。UTMの基本は、150メートル以下を飛ぶ配送ドローンなどが互いにぶつからず、効率よく飛べるように出発時間や高度を事前調整することだ。

 また、ヘリコプターやグライダーなどとぶつからないように、飛行状況や気象条件を見ながらドローン運行者に警告を出したりする。それでも経路を逸脱して、ぶつかりそうになったら機体に搭載したDAA(自動回避装置)で避けることを前提にしている。つまりUTMは管制官、DAAはパイロットにあたる。

 これを空飛ぶクルマの空域に展開するのがUATMだ。UTMの機能を既存航空管制システムと統合するもので、将来パイロットにはテキストや音声で指示をやり取りする一方、無人機にはデータ通信で管制指示を出す。

 こうした次世代飛行方法をNASAはDFR(デジタル・フライト・ルール)と呼んでいる。ちなみに、UTMもUATMも、実際の操縦は行わない。

 UATMは研究開発の途上で様々なタイプがある。米国では、NASAが中心となって、UATMベンダーが相互接続して様々なシミュレーション試験を繰り返している。また、ジョビー社S4などの空飛ぶクルマを使った実証実験も計画されている。

 お隣の韓国では、空域管理機能を2段階で検証する国家プロジェクト「K―UAM グランド チャレンジ」を推進。K―UAMコンソーシアムは、 25年に済州国際空港と周辺観光スポットを結ぶ商業パイロット・プロジェクトを狙っている。同プロジェクトの一環として、韓国の通信事業者KTはK―UAM向け専用5Gネットワークを構築した。

 5Gネットワークは、空飛ぶクルマの空域管理になくてはならないインフラになるだろう。ちなみに衛星通信も別の意味で重要な通信手段だが、今回は説明を省略する。

 

空の通信サービス

 
 管制には、空港の離発着を管理する「飛行場管制」と飛行中の経路を管理する「航空路管制」がある。前述の空港送迎サービスに対応するのは、飛行場管制だ。

 一方、航空路管制は、地上電波レーダーを使って上空を飛ぶ航空機の位置を監視している。空飛ぶクルマは低いところ(山かげや高層ビルの後ろ)を飛ぶことや、飛行エリアが広いことから既存の電波レーダー網では監視しきれない。そこで注目を集めているのが、5Gを使った空のセンサーネットワークだ。

 やや専門的になるが、5Gでは既存の電波に加えてミリ波と呼ばれる波長の短い周波数を導入した。ミリ波は、そもそも電波レーダーに利用されている帯域だ。5Gでは、レーダー同様、個々の端末位置を把握して、そこに向かって電波を送受信するビームフォーミングという技術で高速化と効率化を狙っている。それに使うMMIMO(マッシブ・マイモ)というアンテナは、レーダー技術と共通点が多い。

 地上の端末位置を把握できるこの技術を応用すると、空飛ぶクルマがどこを飛んでいるかをだいたい把握することができる。大量になれば空飛ぶクルマがトラブルで緊急着陸したりすることは日常茶飯事となるだろう。そうした状況を第三者的な視点で客観的に監視することは欠かせない。

 こうした空を舞台とした通信事業をアエリアル・テレコミュニケーション・サービスと呼び、現在、研究開発と規格化が精力的に行われている。空飛ぶクルマが本格化する20年代末には、空の通信サービスも重要な事業になるだろう。

電気新聞2022年11月28日