安定した品質で鋼管鉄塔腹材を補強できる

東京電力パワーグリッド(PG)は、腐食などで劣化した鉄塔部材の補強対策として開発した「現場VaRTM(バータム)工法」の実運用を始めた。東レや安田製作所と共同で考案した工法で、補強したい箇所に炭素繊維(CF)を巻き付け、樹脂で固める。部材交換よりも低コストかつ短期間で対応できる点が特徴。昨年11月から12月にかけて計4カ所に投入し、現場でもトラブルなく作業が進められることを確認した。(宮川健)
この工法では、まず劣化箇所にCFシートを巻く。CFシートはプラスチック製のフィルムで覆い、シートとフィルムの間に液状樹脂を入れる。樹脂が固化すれば補強が完了する。

冬季対策含む作業性確認

樹脂の注入時は、ポンプでフィルム内の空気を抜き、真空にする。樹脂は大気圧の力により、人の手を借りずにフィルム内へ広がり、CFシートに浸透する。
東電PGは原則として、腐食や減肉が見つかった部材は交換している。ただ取り換え作業は、スケッチや発注などが必要で時間がかかる。
現場バータム工法の作業は数日程度で終了し、大型の機械も不要なため、コストを抑えられる。
東電PGは昨年11月から12月にかけ、鉄塔3基の計4カ所にバータム工法を投入した。12月8、9日には茨城県下妻市の50万V新佐原線の鉄塔で使用。地上約80メートルの地点で、減肉が進んだ直径約76ミリメートルの部材を補強した。
作業はデンロコーポレーション(大阪市、冨永充久社長)が担当した。東電PGや安田製作所の関係者が見守る中、8日にCFシートの巻き付けから空気を抜くまでの作業を行い、9日に樹脂を注入した。
関係者の懸念の一つが作業性。開発段階で作業手順は確立したものの、足場が悪く、風も吹き付ける鉄塔の上で、狙い通りに作業が進むかどうかは不透明だった。
もう一つの懸念は気温だ。使用するエポキシ樹脂は気温15度を切ると固まりにくくなるが、冬季に屋外が15度を超えることは少ない。
当日の現場の気温は6度前後。対策として補強箇所に温風を当て、固化を促した。
今回の現場では規定の真空状態を一晩維持できており、作業性に問題はないと判断。温風を数時間当て続けることで固化が可能であることも確認し、冬季対策でも手応えを得た。
作業を見学した安田製作所の高野修一取締役・事業開発本部長は「まだ現場からの意見を聞いている段階ではあるが、うまくいっていると思う」と自信をみせた。

インフラメンテ大臣賞に輝く

東電PGは、部材交換ではコストが大きすぎる箇所などに現場バータム工法を導入したい考え。
開発に携わった東電PG工務部送電グループの山崎智之氏は「(取り換える場合と)どちらが効率的なのかを見極めた上で、使えるところでは積極的に使いたい」と話した。
現場バータム工法は、国からも有効性が認められ、第6回「インフラメンテナンス大賞」の経済産業大臣賞を受賞している。
電気新聞2023年1月11日