再保険会社が一時引き受けに難色

 
 LNGの輸送船に掛ける船舶保険に注目が集まっている。国内損害保険大手3社は昨年12月末、ロシア・ウクライナ海域を通る船に「戦争保険」を提供しないと船主へ通知。一時ロシア極東「サハリン2」からのLNG輸入が難しくなるとの見方が出たものの、日本政府の働き掛けや海外再保険会社との交渉で3月までの保険引き受けは決まった。有識者は「(戦争保険など)船舶保険は一つでも欠けるとLNG輸送に支障が出る」と指摘する。(荻原悠)

 一連の事態は、英国などの再保険会社が日本の損保3社の戦争保険の再引き受けに難色を示したことが発端だ。再保険を受けられなければ損害リスクを全て被ることになるため、損保各社は自社戦争保険の提供をやめる方針を示した。

 LNG船の運航に関わる保険は通常5つ程度ある。(1)貨物の損害を担保する「貨物保険」(2)船本体の被害に関わる「船体保険」(3)貨物が流出した際の環境汚染を補償するための保険(4)(3)で賄いきれない補償金を支払うための保険(5)戦争保険――だ。5つの保険の費用は最終的にLNGの荷主である電力・ガス会社が負担するという。

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 エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の白川裕調査役は「複数の船舶保険が一つでも欠けるとLNG船の運航は難しくなる」と説明する。5つがそろわなければ、運航にかかる損害リスクをカバーしきれないためだ。特に戦時である現在の状況を勘案すると、戦争保険の有無は重要な意味を持つという。

 今後の保険提供はどうなるか。複数の市場関係者は「3月で急に(損保会社が)保険引き受けをやめるとは考えにくい。エネルギー安全保障を考えても、日本全体で何とかサハリン2からのLNG輸入は続くようにするだろう」とみる。

 今回の事態の収拾では、経済産業省・資源エネルギー庁と金融庁が損保業界団体に対して保険を継続するよう求める異例の通知を出した。電力業界関係者は「結果的に政府の要請が効いた形だ」と振り返る。

 ただ、問題の引き金を引いた再保険会社は英国やドイツなどを拠点とする欧州企業が多く、必ずしも日本のエネルギー事情に合わせてくれるわけではない。今回の事態は、エネルギー資源輸入にまつわるリスク要因をまた一つ顕在化させたといえる。

電気新聞2023年1月12日