VFSの集計によれば、空飛ぶクルマのプロジェクトは、世界で700件を超えている。もちろん、コンセプトだけで実際の開発に至っていないものが大半と言われているが、その機体形状や推進方式には、従来の商業航空機にはないユニークなものが多い。今回は、空飛ぶクルマの様々なタイプを紹介してみよう。
◇用途に応じて変化
空飛ぶクルマのデザインは、複数プロペラ(分散推進)とモーター駆動(電動)という共通部分はあるものの、短距離、中距離、2人乗り、5人乗りなど用途に応じて変化に富んでいる。もっとも単純な分類は翼ありタイプ(有翼)と翼なし(無翼)だろう。
例えば、国産スカイドライブ社のSD―05や日本航空が支援する独ボロコプター社のVoloCity、中国イーハン社のEH216などは、ヘリコプターや小型ドローンのように翼を持たないタイプ。
無翼タイプは、構造も操縦システムもシンプルで開発がしやすい。しかし、垂直の揚力と水平の推力をすべてモーターで賄うため消費電力が大きく、航続距離が短い。既存のリチウム・イオン・バッテリーでは、効率的な商業運行は難しい。将来、革新的なバッテリーと超高速充電方式の開発に期待を寄せている。
現在、空飛ぶクルマの多くは、短い翼を持つタイプが主流だ。
国産テトラ・アビエーション社の自作航空機Mk―5、ヒラタ学園と提携したエアバス・アーバン・モビリティー社のNextGen、トヨタが出資し全日空とパートナーを組んでいるジョビー・アビエーション社のS4などが有翼タイプ。
そのほか、商社双日が先ごろ出資したベータ・テクノロジーズ社の同Alia)、ユナイテッド航空やフィアット・クライスラー社が支援しているアーチャー・アビエーションのMidnight、商社丸紅や日本航空が支援している英国バーティカル・エアロスペース社のVX―4などなど、いずれも短い翼を持つ。なお、最近開発を表明したホンダも有翼を狙っている。
ちなみに、普通の固定翼機は翼を大きくしないと離陸する揚力を得られないが、空飛ぶクルマは垂直離発着するので長い翼は不要だ。
◇電池の消耗抑制を
多くのメーカーが有翼タイプを選ぶのは、航続距離を伸ばすためだ。ケロシンなどの航空燃料に比べ、バッテリーの重量対エネルギー密度は格段に低い。大量にリチューム・バッテリーを積んでも重量が重くなり航続距離は伸びない。
しかも、空飛ぶクルマでは、離発着時にバッテリー容量の4割以上を消費すると言われている。そこで水平飛行のときは翼で揚力を得て、バッテリーの消耗を抑えることが重要になる。
しかし、有翼は、離着陸でヘリコプター、水平飛行で固定翼というふたつの性格を持つため構造や操縦が難しくなる。より高度な航空機設計となる。一方、空飛ぶクルマには高い安全性、つまり一般航空機と同じ「70年乗り続ければ事故に会う」レベルが求められる。
設計が複雑になればなるほど、安全性を確保するのが難しくなり、開発期間や政府からの承認(型式認証)が長くなる。
事実、商業化競争のトップを走るジョビー・アビエーションは、足掛け13年かかって開発しているが、同社が当初から既存バッテリー容量で飛ぶ有翼設計を選んだことは先見の明だった。
【用語解説】
◆VFS Vertical Flight Societyの略。垂直離着陸航空機の学会
◆ケロシン 航空機用ジェットエンジン燃料。
電気新聞2022年11月14日