東京電力ホールディングス(HD)が、ブロックチェーン技術を扱うベンチャー企業への投資を加速している。昨年のドイツに続き、1月には英国でブロックチェーンを活用したスイッチング(供給者変更)基盤システムなどを試行するベンチャー企業への出資を決めた。電力取引に変革をもたらす可能性を秘める同技術に先行投資することで、分散化をはじめとする事業環境の変化にいち早く備える狙いだ。

 東電HDが1月に出資を決めたのは、ロンドンに本社を置くエレクトロン社。社員数17人(2017年11月時点)と小規模だが、英国政府機関を顧客に持つほか、17年の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で、新興企業として表彰されたことでも注目を集める旬のベンチャー企業だ。

 エレクトロン社は現在、英ガス・電力市場局(OFGEM)などから補助金を受けて、需要家が電力小売事業者を切り替える際に必要なスイッチング手続きのプラットフォーム構築を進めている。

 英国では需要家が新たな小売会社に契約を申し込むと、それまで契約していた小売会社が任意に連携するメーター管理・運用事業者(MOP)を介して、契約情報や検針値の引き継ぎが行われる仕組みになっている。その際、MOPによる顧客情報の管理・更新が進んでいないことなどから、スイッチング完了までに数週間かかることが問題になっている。

 エレクトロン社は改ざんが難しいという特長を持つブロックチェーンを導入することで、MOPを介さず、メーターにひも付いた顧客情報を小売会社間で直接やりとりするプラットフォームの構築を目指す。実現すればスイッチングに要する時間が数十分程度まで短縮できるという。

 エレクトロン社はスイッチング基盤のほかにも、アグリゲーターと系統運用者が調整力を取引する際に用いるプラットフォームについても概念実証(PoC)を検討中。東電HDは同社への出資参加を通じて、ブロックチェーンを活用した取引プラットフォーム構築などに関する知見を得たい考えだ。

 東電HDは昨年、ドイツでブロックチェーンを使った電力相対取引事業を展開するベンチャー企業のコンジュール社に出資したほか、エネルギー分野でブロックチェーン活用を進める国際組織への参加を決めた。ベンチャー2社への投資はいずれも少額だが、新技術の知見獲得に向けて意欲的な取り組みが目立つ。

電気新聞2018年2月19日