冬場を迎え、日本卸電力取引所(JEPX)のスポット市場価格は上昇局面に入る見通しだ。電力需要が伸びるにつれてLNG火力の限界費用に近づき、冷え込みの厳しい朝夕は一時的な価格高騰も予想される。日本気象協会によると12~1月は昨冬並みの低温傾向になる見込み。特に東京エリアの需給状況は危うく、専門家は「1月中旬から2月上旬にかけて、かなり警戒が必要だ」と指摘する。
スポット価格はLNG火力の限界費用近くで決まるとされる。足元のアジア向けスポットLNG価格から換算すると30円前後だが、現在は平均20円台前半と安値感がある。
要因の一つとして考えられるのは常時バックアップ(BU)の転売だ。燃料高で需要家を手放した新電力に供給余力が生じ、買い手から売り手に回った。常時BUの価格水準は全電源平均のため、スポット価格がLNG火力の限界費用を下回っても利ざやを稼げる。
これから高需要期に入って新電力が買いに転じれば、1日平均価格がLNG火力の限界費用まで上がるのは自然といえる。焦点は、その水準を超えて上昇するかどうかだ。
懸念材料の一つは気象リスク。日本気象協会の見通しでは、冬の間はラニーニャ現象が継続し、寒気が流れ込みやすい。11月下旬のような陽気には戻らず、冬本番に突入する。12月の予想最高気温は晴れても都心で11~12度、西日本で10度付近。北日本の日本海側や北陸は大雪のおそれもある。
同協会エネルギー事業課の渋谷早苗氏は、「昨年の傾向をみると、気温が10度を下回った時のスポット価格の上がり方がかなり急だった」と分析。今冬も同じ傾向が続いた場合、気温の下がる朝夕などは一時的に60円以上の高値がつく可能性があるという。
昨冬並みの低温傾向は1月も続く見通しだ。1月の東京エリアの予備率は東北と合わせて4.1%と厳しい。渋谷氏は「12月の逼迫リスクは比較的低いが、1月末になると数日に1回は冬型の気圧配置が緩む。その時に南岸低気圧が近づき、降雪・積雪をもたらすおそれがある」と話す。
最大の懸念は雪が解けないことだ。南岸低気圧の通過後は晴れることが多いが、発達した低気圧は北から寒気を引き込む。その寒気が強いと寒さが続いて雪が残る。都心で8日連続の積雪を観測した2018年1月は太陽光パネルに積もった雪が解けず、供給力が不足した。低気圧通過後に気圧の谷が残った場合も曇天が続くため、注意が必要という。
一方、政府は需給逼迫を回避するため、節電要請や追加供給力公募などの需給対策を講じている。今冬の欧州は高めの気温が見込まれ、アジアと欧州で同時にガス需要が伸びる懸念も小さい。
市場関係者は「一時的な価格高騰はあるだろうが、大規模な電源脱落がなければ、1日平均のスポット価格は(LNG火力の限界費用相当の)30円程度に収まらなければおかしい」と指摘する。その水準を超えて価格上昇が続く事態となれば、「需給対策の失敗を意味する」との見方がある。
電気新聞2022年12月13日
>>電子版を1カ月無料でお試し!! 試読キャンペーンはこちらから